【本の話をしよう】
私は読み狂人。朝から晩まで読んで読んで読みまくり、読みに狂いて黄泉の兇刃に倒れたる者。そんな読み狂人たる私がこのところ読んだ本の中で激烈におもしろいなあ、死ぬなあ、現状で狂っているけどもっと狂うなあ、と思うのは、中原昌也の、『こんにちはレモンちゃん』という短編小説集である。
どんな小説か。それはもう中原昌也の小説というより他なく、ちょっと読むだけで、今日、文芸雑誌などに掲載されている他の小説と随分と違っている、とわかる。
名文意識から免れて
というと、狂ったような、はじけたような、文法をどつきまわし、文脈を半殺しにしたような、子犬が人目につかぬところで高笑いしているような、そんな文章を想像しがちだが、そうではなく、むしろ古風な印象を受ける、静かな語り口で、ところどころにはもの悲しささえ漂う文章であり、それがかえって独特の味を生み出している。