≪たくましく、しなやかに…道開く意志≫
もう一人は闇の長距離タクシー運転手の30代の男性、アデル。闇というからには、正式な営業許可なく従事している。「もし警察に遭遇したら、俺がうまいことするから口出すなよ」と言うが、「闇」から連想する怪しさはあまり感じない。タクシー代はバスと同じ料金。オフィシャルではないだけで、こちらとしては需要の隙間を縫っている好都合な産業だ。密室の車内で彼は言う。
「経済も貧弱でキューバは貧しい。社会主義は好きではないけど、教育と医療が無料なのは素晴らしい」
不満や諦めの言葉ばかり聞き、耳にタコができていた私にとって、アデルの肯定的な態度は新鮮だった。そこで、ニックが吐露していた心情を意地悪にもぶつけてみた。
「でも海外旅行自由化も対岸の出来事で、一般のキューバ人はパスポートを作る費用も稼げないらしいね」
するとアデルは世間の弱音を一蹴する勢いで「どこでもパスポート作成に費用はかかる、チケットも高い。そんなの当然だ」と言い放った。
そして語気を強めて「国のシステムは関係ない。俺はたくさん働いて、お金を稼いで、旅行にも行って、この目で世界を見る!」。