メディアによって市民の社会感覚が醸成されるのは当然であり、それを見越した政治活動がなされるのも致し方ない。テレビの視聴者や新聞の読者の圧倒的多数は猪瀬氏と直接的な接触はない。しかし、メディアで報じられた金銭のやり取りやその経過説明の迷走ぶりから誰もが「こいつは怪しい」と思ってしまう。市民は、政治家の金銭をめぐる暗部に想像をめぐらし、その代表としての猪瀬氏へのバッシングに加担したくなる。
関心薄れた国会議論
問題なのは、猪瀬氏の騒動がメディアとりわけテレビのワイドショーやニュースショーの格好の話題となり、日本の将来により大きな影響を及ぼす国会議論への人びとの関心が結果として薄れてしまったのではないかということである。
猪瀬氏の問題に目を奪われている間に、今後の日本の外交・安全保障政策を左右する「国家安全保障会議(日本版NSC)」創設関連法が11月27日に、12月6日には「特定秘密保護法」も成立した。その後も国会で法律の細部の規定について激論がなされているにもかかわらず、猪瀬氏問題の報道ラッシュで、国民の理解の深化は確実に妨げられた。
もちろん東京都知事といえば、世界的にも日本の顔の1人であり、国内的にも閣僚なんかよりも大きな権限と予算、部下を持ち、その政治力は巨大だ。だから与党だけでなく、各野党も猪瀬氏辞任の日から後継候補選びに動き出した。