写真もキャンプもさほど経験のなかった自分が、アラスカで写真家としてかまくら生活をしている。人生どうなるか分からないと、今でもつくづく思うことがある。
北米大陸最高峰のマッキンリー山とオーロラを撮影したいと、山裾の氷河上でキャンプを始めて十余年。毎冬2、3カ月をかまくらの中で過ごしている。
そもそもなぜかまくらなのか。
それは安全と快適さを求めて出した結論である。
冬のマッキンリー山付近は想像を絶する強風に見舞われる。探検用のテントですら、風圧でポールが折れてしまうのだ。際限なく降り続く積雪は、テントなど一晩で覆い尽くしてしまうほど猛烈だ。
テントを叩く風の轟音は、さながら死に神の叫び声である。しかしかまくらの内部は嘘のように静かで、守られている安心感に心が和む。そして何より、かまくら内は外よりも20度近くもあり、かなり暖かいのだ。
≪酷寒の闇夜でも揺るがないこだわり≫
食事はいたってシンプルだ。5分で炊きあがる安価な米に木屑のような豆を入れ、味付けにスープのもとやカレーを加える。これを毎日2回、数カ月間食べ続ける。昼食はチョコレートなどの行動食だ。