危険な目に遭ったことはありませんか-。講演会場などで最も頻繁に聞かれる質問だ。軽い例を1つ。
大海に浮かぶ木の葉のようなゴムボートで、ザトウクジラの姿を探していた。遠くの点にしか見えなかった黒い塊が、5分後に浮上したときには10メートルにまで近づいていた。
潮を吹き上げながらこちらに向かって前進する15メートルの巨体。威圧感は潜水艦なみだ。
そのまま進まれてはボートもろともひっくり返ってしまう。飛び上がるほど冷たい海水は、落ちた人間の命を30分足らずで奪ってしまうほどだ。
とっさにボートを強く手でたたいた。バンバンという音を響かせ、クジラに気づいてもらうためだ。
次の瞬間、3メートルにまで迫ったクジラが大きく身をよじり、ボートに触れる寸前で進路を変え、そのまま水中へと消えていった。
激しい鼓動とは裏腹に、全身の血の気が引いていくのを感じた。
≪奇跡のような出合いに感動≫
危険と隣り合わせの職業だが、それを補って余りある喜びが自然写真家にはある。