最近の至極の体験をひとつ。季節移動をするカリブーの大群との出合いだ。
アラスカ最辺境である北極圏のツンドラ地帯。カリブーの大群との遭遇を夢見て、毎年ひとりで成果のない旅を繰り返してきた。四国の4倍の面積を誇る荒野では、宝くじに当たるほどの幸運なくしては、彼らには遭遇できない。
その大群にようやく巡り合えたのだ。
キャンプ最終日。迎えの小型飛行機に乗り込み上空から辺りを見下ろしていた。ある大河に目をやった瞬間、息をのんだ。巨大なかぎ爪で大地をひっかいたようなカリブーの足跡が、川沿いに何本も、延々と続いていたのだ。飛行機での追跡が始まった。
支流が現れるごとに群れは分散し、合流を繰り返す。パイロットと目を凝らしながらその足跡を追う。
もうすぐだ。湧き上がる期待に1時間があっという間に過ぎたころ、揺れ動く原野が突然目の前に現れた。心の中で歓喜が爆発した。
数百年にも渡り、人知れず繰り返されてきた季節移動。地球の鼓動を目撃した瞬間だった。(写真・文:写真家 松本紀生/SANKEI EXPRESS)