彼女は覚えていない
ところで大人になってから、5歳の私を置いて逃げたときのことを姉に尋ねてみたことがありますが、彼女は覚えていませんでした。私にとっては犬に追われた恐怖と、姉に見捨てられた絶望に満ちた忘れがたい思い出ですが、姉にとってはとるに足らない出来事だったのでしょう。それでも姉は、「そんなことあったんだ。ごめーん。怖かったっしょ」と明るく笑って謝ってくれたものです。
子供のころは、才色兼備で誰にでも好かれる姉が私のコンプレックスでしたが、今は姉のそんな明るさと、昔から変わらぬ優秀さ、可愛らしさが、妹としても、一人の人間としても大好きです。
──と、直接言葉にして伝えることは、とても恥ずかしくてできません。姉がいつかこの気持ちをくんでくれる日は、はたして…。