フェラーリ上場、マニアは落胆「ブランド価値下がる」 なぜ?

 
上場したニューヨーク証券取引所の前には、フェラーリの車が並べられた=2015年10月21日、米ニューヨーク(ロイター)

 イタリアの高級スポーツカーメーカー、フェラーリが21日、ニューヨーク証券取引所に株式を上場し、初日の終値は売り出し価格を3ドル上回る55ドル(約6600円)を付け、上々のスタートダッシュを決めた。株式時価総額は104億ドル(約1兆2500億円)で、日本のマツダに匹敵する規模。年間生産台数がわずか約7000台と、台数より希少価値を追求するビジネスモデルが市場で評価された。ただ、上場を機に生産台数を3割多い9000台に増やす方針を打ち出し、マニアらの間では「ブランド価値が下がる」と失望の声が出ている。

 「車自体が投資対象」

 「フェラーリの車はパフォーマンス、高級さ、そして様式美の典型である」

 親会社である欧州自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)の最高経営責任者(CEO)とフェラーリ会長を兼務するセルジオ・マルキオーネ氏(63)は、取引所前にずらりと並んだ車を前に胸を張った。

 銘柄コードは「RACE(レース)」。自動車レースの最高峰F1の名門チームにふさわしいコードが採用された。投資家の人気も高く、初値でいきなり60ドルを付け、エンブレムに描かれた「跳ね馬」の勢いを見せつけた。フェラーリ株の約9割を保有していたFCAは、約1割を売却して得た資金で世界販売台数の大幅な引き上げを目指す。

 イタリア北部マラネッロで1947年に創立されたフェラーリは、過剰なモータースポーツへの投資や労使紛争などで経営危機に陥り、69年に伊フィアットの傘下に入った。

 フェラーリの昨年の生産台数はわずか7255台。その希少価値から中古車でも値下がりすることはなく、「株式よりも、車自体が最高の投資対象」(米証券アナリスト)といわれるほど。規模拡大を追い求め、世界販売台数が1000万台を超えたドイツのフォルクスワーゲン(VW)が排ガス不正に手を染めたのとは対照的なビジネスモデルが改めて脚光を浴びている。

 マルキオーネ氏は「高級スポーツカー市場でのリーディングポジションを保ち、ブランドの独自性と価値を向上させる」と語り、生産台数を大幅に増やすことはないと約束した。

 希少価値低下に警戒感

 だが、上場申請書の中で、安定的な売上高と利益を確保するため、3割増産する計画を打ち出したことに、マニアらは落胆している。

 スイスにある名車コレクター向けのアドバイザー会社は、米経済専門テレビ局CNBC(電子版)に対し、「他の高級スポーツカーと違い、値崩れすることがなかった中古車市場の今後の動向を注視する必要がある」と警戒感を示した。

 さらに、ロイター通信は「減速が必要」との見出しを付けた解説記事で「時価総額はマルキオーネ氏が予想した120億ドルに届かず、イタリアのプラダのような高級服飾ブランドに匹敵する企業価値は得られなかった」と指摘した。

 マルキオーネ氏との確執から解任されたとされる前会長のルカ・ディ・モンテゼモロ氏(68)はかつて、生産台数を7000台以下に抑制する方針を打ち出し、こう語っていた。

 「フェラーリの商品価値の基本は限定感。われわれは夢を売っている」(SANKEI EXPRESS