これは他のエアラインだが、日本への帰国便で一度、ビジネスクラスの最前列の方から大きな声が聞こえてきたことがあった。イマイチさえなさそうな年配のビジネスマンが、自分が予約時に指定しておいたはずの和食ミール(機内食)が確保されていなかったと烈火のごとくお怒りになっていたのだ。ひざまずいて謝り、事情を説明するキャビンアテンダントに向かって、「あんたの謝罪なんか意味はないんだよ。日本に帰る日本人にこそ和食を確保するべきだろう! 味のわからない外国人乗客に和食なんか出してどうするんだ!」と怒りのあまりか偏見極まりない言葉をぶちまける。「あの見苦しい怒りようには、果たして合理性があるだろうか?」と疑問を持った。「そんなにお客さまは神様か? 事情を説明されても謝罪を受け付けないとゴネてきれいな女性CAに八つ当たり。しかも問題は機内食の種類(笑)。どうせ会社のチケットで、自分のお金で乗ってないのに。日本人客、甘やかされてんなぁ」。
……というわけで、余計なお世話と重々承知しつつ、今回の脳内エア会議のお題は「日本人が世界一甘やかされた”お客さま”感覚から脱するにはどうしたらよかろうか?」です。
「サービスは価格に込みになっている」とたたき込まれた欧州生活
笑わないドイツ系スイス人が多い、あるスイスの街に住んでいた頃。町なかの店で笑顔を見せてくれる店員は貴重だった。EUと歩みを共にしないことに決めたスイスでは移民の受け入れも厳しく、私のように駐在家族としてそこに住む有色人種は目立った。東洋人の私が会計のときに何か軽口でもたたこうものなら、「お前はいま何か言ったか」くらいの冷静な無関心さで応対されるのが常だった。その代わり、サービスは効率的でほぼ間違いがない。彼らの「サービス精神」のあり方は、武骨で決して豪華ではないけれど正確に定時運行される鉄道や、清潔に維持された街並み、徹底的に分別を求められる割には収集日が週1回や月1回しかないゴミ出しに表れていたように思う。