高齢化の進展とともに加齢による難聴の人が増えている。「自分はまだ聞こえる」「見た目が悪い」などと補聴器を敬遠する人は多いが、専門家は「早く使い始めた方が順応しやすく効果的」と指摘する。聴力の改善により家族との会話がスムーズになったり、趣味や活動の幅が広がったり。活動的なシニアライフの方策の一つといえそうだ。(兼松康)
つけたがらない
「お母さん、ほら、こっちだよ」。千葉県市川市の補聴器店「ベスト補聴器センター」。息子に付き添われて入店した高齢の母親には呼び掛けの声がよく聞こえないようだ。「お母さんっ! こっち」。声のトーンを上げ、店内のカウンターに促すとようやく気づき、「大丈夫だよ、ちゃんと聞こえてるよ…」。
親の耳の聞こえを心配して連れてきた子供に対し、自分はまだ聞こえると言い張る親。同店の認定補聴器技能者、内藤幸輔さんはそうしたやり取りを「よくあることです」と話す。
加齢による聴力の低下はゆっくりと進行する。加えて、家族など周囲の人が大きな声で話し掛けたり、テレビの音量を上げたりすれば聞こえるため、「難聴であることに自覚がない人は多い」と内藤さん。このため、「自分にはまだ補聴器は必要ない」と考える高齢者は少なくないという。