インターンシップ、新卒の「採用ツール」に定着 内定直結には異論も

 
野村証券が今年初めて実施した長期型インターンシップの最終日に、同社社員にプレゼンテーションする学生=9月、東京・大手町

 企業や学生の間でインターンシップ(就業体験)の存在感が増している。8割超の企業が参加学生の中から内定を出したとの調査もあり、インターンが学生の職業観を養う場から実質的な採用ツールに定着してきたことが背景にある。このため、これから本格化する2018年3月卒対象の秋・冬期インターンは一段の過熱化も予想される。半面、企業が採用選考につなげることに是非もあり、産官学でホットな論争に発展している。

 早期から接点づくり

 人材サービスのアイデム(東京都新宿区)が企業の採用担当者を対象にした10月1日時点の調査で、採用選考に応募した17年3月卒予定の学生のうちインターン参加者を内定した企業は83.1%に達した。「選考の一環」に位置付ける企業も5割を占め、インターンが企業の新卒採用で定番化している実態を浮き彫りにした。

 これは、会社説明会などの広報活動から面接をはじめ選考までの期間が短縮した要素が大きい。経団連が会員企業向けの採用指針で、今年は3年生への広報開始を3月に据え置き、選考を4年生の6月解禁と昨年から2カ月前倒ししたためだ。経団連は9月、18年3月卒の採用活動日程も現状維持と決め、企業、学生は引き続き「短期決戦」への備えを迫られる。

 採用活動の短期化には企業への学生の理解が深まらないなど懸念も強い。この結果、ミスマッチ防止や優秀な学生の確保に、「インターンを通して学生と早期からの接点づくりに注力する企業も少なくない」(アイデム)。半面、文部科学省、経団連や大学は採用に直結するインターンは認めず、選考の場としたい中小企業などとの溝を深めている。

 文科省と厚生労働省、経済産業省がインターン促進に向けて7月に設けた検討会でもこの点が焦点となっている。いまや主流の「ワンデー(1日)」と呼ばれる短期型のインターンは採用に直結し、学生の職業観育成や将来のキャリア教育を重視する大学としては好ましくない。しかし、文科省が全国776大学を対象にした調査(15年8~9月実施)で、大学が単位認定するインターンに参加した学生数は全体の2.6%に過ぎず、過熱する就職活動とのギャップは大きい。それだけ現実を直視した学生が採用直結型を選び、企業に直接応募する姿がうかがえる。

 “長期型”も選択肢に

 欧米の場合、インターンの歴史は長く、2~3カ月の長期型で報酬を支払うのが一般的で、採用にも密接に結びついている。短期型が主流で採用選考にたがをはめる日本とは大きく異なる。学業を優先し、1、2年生での体験が職業感を醸成するとはいえ、企業がコスト負担も重い長期型に二の足を踏んできたのも事実だ。

 ところが、今年はやや事情が異なる。野村証券、花王など17企業がこの夏、「学びの一環」として1カ月超のインターンを試み、全国11の国公私立大・高専から1、2年生の約70人を受け入れた。

 一方、外資系を中心にユニークな事例も増えている。人材サービスのアデコ(東京都港区)や家庭用品のプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン(P&Gジャパン、神戸市)はそれぞれ「勝ち抜き型」プログラムを実施し、優勝者がグループの国際大会で海外の学生と競うグローバル企業ならではの趣向を凝らす。アデコは親会社が就労機会に恵まれない若者にエンプロイアビリティー(雇われる能力)を身に付けさせる活動を世界規模で展開しており、「働くことへの『気付き』を与える場」(川崎健一郎社長)を提供した。

 これらは採用一辺倒な流れと一線を画し、企業に求められる多様な人材の育成にもなり、インターンが新たな局面に入ったことをうかがわせる。採用につなげる是非をめぐり国が検討会を設けてまで議論を始めたのもその表れで、採用現場の実態と乖離(かいり)するインターンの定義づけを再考する時期を迎えている。(鈴木伸男)