子供を犯罪から遠ざけるために 子育て中の親にできることとは?

 
母親が子供とのコミュニケーションについて学ぶ人間関係講座=大阪市北区

 世間の注目を集めるような事件を起こした人が、一見ごく一般的な家庭で育っていることは少なくない。成人の過ちに親の責任を問うことには賛否があるものの、子供が将来、犯罪に手を染めることがないように親にできることはないのだろうか。(加納裕子)

 能動的に聞く

 「子供に対する不安や期待が大きいときに限って過干渉してしまうんです」「子供には自分で解決する能力があると信じて。それが自立に結びつきます」

 9月13日、大阪市北区で開かれた「日本心理福祉教育研究所」(兵庫県西宮市)の人間関係講座。6人の母親が同研究所代表の小野沢みさをさん(73)を囲み、子供とのコミュニケーション法について学んでいた。

 親子のコミュニケーション法を中心とした講座やカウンセリングを長年続けてきた小野沢さんは「子供を犯罪から遠ざけるためには、自ら善悪の判断ができるように自立させることが大切。親子の絆は罪を犯しそうになったときの歯止めとなり、犯罪を防ぐことにもつながります」と話す。

 子供の自立を促し信頼関係を築くために同研究所が重視するのは、子供の発言や思いを親がまず受け止め、それが本人に伝わるようにそのまま「こうだったんだね」と繰り返す「能動的な聞き方」。何かを改善してほしいときには「あなたはこうしなさい」と指示するのではなく、子供の困った行動が親にどんな影響を与え、親がどんな気持ちになるのか「わたしメッセージ」で伝える。子供が親の気持ちを理解し、自分で解決法を考えることで自立につながっていくという。

 万が一子供が法を犯したらどうすればよいのか。小野沢さんは「子供が親を避けたり反発したりする場合が多いと思いますが、親は『お帰り』『おはよう』『ごはんあるよ』とだけ言い続けて」とアドバイスする。「二度としないで」などと何度も注意すると子供は「親はどうせ自分を信じていない」と感じ、かえって再犯へのハードルが低くなってしまうため、逆効果だという。

 力みを捨てる

 奈良少年刑務所で9年間、教育専門官として3千人以上の入所者と向き合った臨床心理士の竹下三隆さん(61)は「親の必死さが子供をゆがめてしまうことがある」と指摘する。

 平成23年、奈良少年刑務所で受刑者の保護者25人に子育てについてアンケートしたところ、「しつけは厳しくした」とした親は14人、「あてはまらない」と答えた親は1人だけだった。また、ほぼ全員の24人が「『人に迷惑をかけるな』と言って育てた」とし、乳児期に手間のかかる布おむつだけを使用した親も6人いたという。

 竹下さんによると、親が“正しいこと”に邁進(まいしん)すると、子供に対して許せないことが増える。厳しいしつけや期待は「今のままのあなたではいけない」というメッセージとなり、「愛してもらえない」という飢餓感につながることがある。「人は誰でも愛されたい本能がある。それがない受刑者はいなかった」と竹下さんは振り返る。

 幼少期から強さを求められる男性は特に、愛を求める欲求を抑圧されがちだ。竹下さんは「親は男の子にも『泣くな』とは言わず、『甘えるな』ではなく『甘えろ』と言ってほしい。その前に、親自身が誰かに甘えることも大切。人は自分がされたことを、自然と他人にもできるのです」と話している。

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 ■子供時代に大切なこと

 1、十分なスキンシップや話を聴いてもらう体験をする

 2、1人で解決できないことを人に相談できるようになる

 3、「大切にされている」「必要とされている」という実感を持つ

 4、男らしさや女らしさにこだわりすぎず自分らしさを大切にする

 5、自分の思いや考えをはっきりと言えるようになる

 6、文章で気持ちを表現し、スポーツなどでストレスを発散する

 7、失敗に過剰に反応しないようにする

 8、人に少し甘えられるようになる

 9、自分を認め、自分らしく生きることの心地よさを知る

 10、「優越感」ではない自信を持つ (竹下三隆さんへの取材による)