GENBI SHINKANSEN 現美新幹線(1)夏休みに乗りたい! 世界最速の“現代アート美術館”

江藤詩文の世界鉄道旅・夏休み特別企画
カラーグラデーションが美しい蜷川実花さんのアート。鈴木直之さんによるロゴもいい

 上越新幹線の越後湯沢、新潟間に、今年4月29日に登場した「GENBI SHINKANSEN/現美新幹線」。日本が世界に誇る新幹線と、気鋭のアーティストによるモダンアートという、これまでにない発想のコンビネーションで、鉄道ファンのみならずアートファンの関心も集めた。デビュー早々、さっそく乗りに行った人も多いだろう。

 6両編成の列車は、秋田新幹線で使用していたE3系を改造したもの。秋田新幹線の車両を上越新幹線区間で走らせるにあたって、プラットフォームなど多少の差違に対応したそうだ。11号車から16号車の6両のうち11号車をのぞく5両の車体は大胆に片側の窓をふさぎ、アートの展示スペースにしている。

 便名は臨時の「とき」で、越後湯沢=新潟間を1日3往復し、週末と休日を中心に運行している。いずれも各駅停車で、乗車時間は約50分。これまでは11号車は指定席、12~16号車は旅行商品として販売していたが、7月からは11号車は指定席、12~16号車は自由席になる。どちらの席でも車内は自由に移動できる。

 黒がベースの車体を華やかに彩るのは、写真家で映画監督の蜷川実花さんの作品だ。長岡花火をモチーフにしたアートで、独特の艶やかな発色が“蜷川実花の世界観”を表現している。越後湯沢駅のホームで、にこやかに手を振りながら「GENBI現美」を見送る駅員さんたちと並び、走り去る「GENBI現美」の姿を目に焼き付けた。めくるめく色にうっとりしていると、つかつかとやって来たのは、デビュー以来「GENBI現美」を見守り続けているという初老の警備員さん。なんでもこの列車は逆サイドのアートがまたすばらしく、両面を見てはじめて「GENBI現美」を見たことになるとか。

 なるほど……。手の届かないブドウは酸っぱいし、逃した魚は大きいもの。ポスターで確認した“見られなかった片面”は、私が見た側より美しい……ような気がする。

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら