アントワープ中央駅(2)“世界一美しい駅”はクラシック&モダンなデザインの融合
江藤詩文の世界鉄道旅いかにも19世紀のヨーロッパらしい色大理石の宮殿、じゃなかった待合室を抜けてプラットフォームへと進むと、そこには鉄骨とガラスで組み立てられた現代的な空間が広がっていた。何この大胆な展開は。重厚感のある石造りと、硬質で近代的な鉄骨&ガラス。アールが美しい曲線の優しさとすっきりとエッジの立った直線の潔さ。なんだか19世紀から20世紀へとタイムスリップしたような気がする。まるで時代を経て、継ぎ足してつくられたような設計だが、どちらも建築家ルイ・デラサンセリの設計によって一気に建てられたというからすごい。待合室の部分は宮廷文化を、ホームは産業革命を象徴しているといわれ、折衷様式の建築デザインは神々しささえ漂わせ「鉄道の大聖堂」と称えられているそうだ。
3層に重なったホームには、“ルージュトレイン”ことタリスをはじめ国際列車や近郊列車など、色とりどりの車両がひっきりなしに発着する。柱で垂直に区切られた空間は、まるで窓が開いているようで、なんだか“列車のショーウインドウ”を眺めている気分。ホームのすぐそばにはカフェやショップが並んだフロアは、“音鉄”にはたまらないだろう。
各フロアを結ぶモダンなエレベータもあるが、列車のすぐそばを行き来するエスカレーターが断然楽しい。上がったり下がったりを何度も繰り返していると、踊り場にあるスナックを売る屋台の青年が手招きする。ホットドッグやピッツァと並んで、生クリームやチョコレートソースをトッピングしたワッフルがあるのがベルギーらしい。
「迷っているのですか。どこへ行きたいの」と、青年。駅をふらふらしていると(私の場合はお仕事ですが)、ときどきこんな風に声をかけてもらうことがあり、たいへん困る。しかしここは“世界一美しい”駅。撮り鉄がたくさん来ているはずだ。
そう思いきや、色大理石づくりのホールは撮影スポットとして人気が高いが、ちょっと無骨な印象のこちらはそれほどでもないそうだ。確かに待合室にいたバックパックの撮り鉄は、こちらでは姿を見かけない。
シンプルなワッフルをひとつ買って休憩し、再びホールへ行ったりプラットフォームへ戻ったり。改札がない駅の構造は、鉄道ファンにはありがたい仕組みだ。
■取材協力:ベルギー・フランダース政府観光局
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら
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