タリス(1)時速300キロで駆け抜けるセクシーな“ルージュトレイン”

江藤詩文の世界鉄道旅
多くの列車が発着するアントワープ駅でも、ひと際色っぽいタリス

 フランスのベルギーからオランダのアムステルダム・スキポール空港へ移動するにあたり、「車で送ってあげましょうか」という温かい申し出を丁寧に辞退して、私は高速列車「タリス」を選んだ。“ルージュ(赤い)トレイン”とか“赤い貴婦人”といった愛称を持つ「タリス」は、フランスのパリとベルギーのブリュッセルを中心に、ドイツのケルンやオランダのアムステルダムといった4カ国の主要都市を最高時速300キロで結ぶ国際列車だ。“電車で気軽に外国”へ行けるというのが、日本人の私にはことのほか嬉しい。 車両はフランス国鉄の高速列車「TGV」をベースに改良されたもので、外観は深みのあるワインレッドを貴重にシルバーとグレーがスタイリッシュに配色されたヨーロッパらしいデザイン。車内の布張りのシートは、赤をメインにピンクや紫を組み合わせた女性的なカラーリングで、ふだんはブルー系やグリーン系といった清潔感のある落ち着く色合いの新幹線に乗り馴れた私から見ると、なんというか高級なクラブみたい。車内照明まで赤く、透けるような肌をした白人女性の頬を紅の光がぼうっと照らすのが、なんとなくなまめかしい。

 客車は一等車に相当する「コンフォート1」と二等車の「コンフォート2」の2クラス制で、コンフォート1は通路を挟んで1席+2席、コンフォート2は2席+2席、シートピッチにもかなり差がある。さらにコンフォート1はシートがリクライニングできたりフットレストもあり、その快適度合いの差は飛行機で例えるならエコノミークラスとプレミアムエコノミークラス以上はありそうだ。そのうえコンフォート1は時間帯によって朝食、軽食、ランチ、ディナーがサービスされる。私は迷わずコンフォート1を購入しようと思いきや、なんと満席ではないか。日本でいえば新幹線通勤にあたるのだろうか。私が乗車した時間帯は国境を超えての通勤客が多いそうで、嬉しかったはずの“電車で気軽に外国”へ通勤できる距離感が恨めしい。

 ちなみに昼食と夕食にはワインやビールもつくとか。さすがヨーロッパ。

私は“満員の二等車の通路側”という、乗り鉄にはあまり好ましくないシートにやむなく乗り込んだ。

■取材協力:ベルギー・フランダース政府観光局

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら