香港MTR・エアポートエクスプレス(2)整列乗車に静寂した車内、快適すぎる35.3キロの鉄道旅

江藤詩文の世界鉄道旅
通路を挟んで2席ずつ配置された座席は全席自由席。スーツケース置き場もゆとりがある

 早朝6時前から深夜0時過ぎまで、ほぼ10分間隔で運行している香港の「エアポートエクスプレス」。市内から空港へはわずか約35キロ、タクシーを利用しても3、40分といったところだが、所要時間24分のエアポートエクスプレスを利用してみたら、もう他の交通手段は選びたくなくなった。なぜって無料のシャトルバスで駅まで到着すれば、この先はまったくストレスフリーで旅ができるのだ。

 話は飛ぶが、香港の公共施設ではほとんどの表示に中国語と英語が併記されているので、日本人にはわかりやすいですよね。語学に自信がなくても、漢字と英語の両方を見れば、だいたいの意味は推測できる。で、「エアポートエクスプレス」に乗るために、そのわかりやすい案内板に従って進むわけだが、空港を利用する旅行者のための移動手段として設計されているので、どこもかしこも広々としている。スーツケースを転がしているのに、駅にはエスカレーターもエレベーターもなかったり、狭い改札口でしょっちゅうつかえたりする私にとって、間口の広い改札口やスペースをたっぷりとったエレベーターはありがたい。

 プラットフォームで電車を待っていると、大きなスクリーンが目に留まった。次の列車がいつ到着するか、分刻みで表示されている。空いたスペースで、日本人には見慣れた風景が流れ、模式図による解説が始まった。「下車する人を優先し、並んで順番に乗車しよう」と啓蒙する動画だ。

 空いている時間だったため、残念ながら実際に整列乗車を見ることはできなかったが、とにかく乗り込めば誰かが手を貸してくれて、スーツケースはきちんと収納棚に収められる。ちなみに個人的な統計だが、私がこれまで鉄道に乗った国で誰かが荷物の上げ下ろしをサポートしてくれる確率は、日本を除けば100パーセント。車内は清潔で、まるでスイス国鉄のおしゃべり禁止車両「サイレントカー」のように静まり返っていた。車内アナウンスもごく控えめだ。ちょうど朝ご飯の時間なのに、“飲食禁止”のルールをみんなしっかり守っている。

 さすが世界を代表するハブ空港。設備もマナーも見習いたい気もするが。あまりにもスマートな時間の反動か、香港らしいエネルギッシュな喧噪がちょっぴり恋しくなった。

■取材協力:香港政府観光局

■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら