“忍者版ファミリーヒストリー” 末裔は本当にいた!古文書で証明
「忍者の里」で知られる滋賀県甲賀市が、甲賀流忍者の末(まつ)裔(えい)を探す「甲賀流忍者調査団 ニンジャファインダーズ」を1月に結成した。忍者といえば、伊賀(三重県)と並んで名前があがる甲賀だが、その存在や活動には、はっきりとした記録がない。謎に包まれた実態を今も“闇”に紛れて暮らす(?)子孫を通じ、明らかにしようという試みだ。甲賀市は忍者のPR動画を作成したり、職員が忍者装束で業務についたりと忍者によるまちおこしを進めており、海外でもブームの「NINJYA」をより広めることを目指す。(北野裕子)
「甲賀武士53家」の子孫はいずこ…
調査団は、甲賀市観光企画推進室や郷土史研究家などで構成。まず着手したのが、「甲賀武士53家」と同じ姓を持つ世帯へのアンケートだった。
同市歴史文化財課などによると、甲賀武士53家とは、近江国甲賀地域で中世から戦国時代にかけて活躍した有力な地侍(じざむらい)の集団。日頃は各地域の支配者として、農村を統治していた。
地侍と忍者-。一見つながりがないようにみえるが、実は甲賀流忍者とは、甲賀地域の農村にいた地侍にルーツがあるとされている。その地侍の集団が「甲賀武士53家」と見られている。
53家は近江南部で勢力を持っていた大名、六角(ろっかく)氏と家臣の関係にあり、戦いのときには兵力を供給するなど六角氏の軍事力の一端を担っていたという。
その53家の名が全国にとどろいたのが15世紀、六角氏が室町幕府9代将軍の足利義尚に攻め込まれたときだ。六角氏の家臣らは地の利を生かし、さまざまな奇襲をかけて幕府軍を苦しめた。この活躍ぶりから「甲賀53家」と呼ばれるようになったとされる。
同市はその甲賀53家に着目し、「望月」「大原」など同じ姓を持つ市内の725世帯にアンケート用紙を送付。忍者の子孫かどうか、手裏剣や巻物など忍者ゆかりの品が残されていないかなどを尋ねた。回答のあった224世帯のうち、31世帯がゆかりの品を持っていると回答した。
ちなみにアンケートでは、現在の職業を尋ねる選択肢に「公安」や「CIA(米中央情報局)」などの“小ネタ”も混ぜたが、もちろん該当者はなかった。
先祖は島原の乱で活躍
調査団は回答した人を訪れ、聞き取り調査も実施。その一人が、同市水口町下山の伴資男(ばん・すけお)さん(73)だった。自宅に古文書や巻物が残っており、忍者に関係あるかどうかわからないが、この機会に調べてもらおうと調査に応じたという。
古文書は、戦国時代の武士の子孫が幕府に仕官を求めた文書「甲賀古士(こし)由緒書」と、伴さんの家の家系図「伴嗣通(しつう)」の二つ。調査団の専門家が調べたところ、伴さんの先祖を含む10人の武士が島原の乱(1637~38年)に徳川幕府方として参加し、相手の城に潜入。偵察活動を行っていたことが読み取れたという。まさに忍者の存在が文献で確認されたわけだ。
伴さんは「親戚(しんせき)と忍者の話をしたこともなく、まさか先祖にいるとは思わなかった」とびっくり。ただ自身は、忍者のようなずば抜けた運動能力や、CIAに所属した経歴はないと笑った。
今回の調査では、自分が忍者の子孫だと回答した世帯が88世帯あり、調査団が「忍者の日」(2月22日)前日の21日に同市内で開催された「甲賀流忍者復活祭」で発表した。今後は回答のあった世帯のほか、古文書などゆかりの品を持つ世帯の調査をさらに進めていくという。
ムービー、復活祭…。町中忍者づくし
同市は並行して忍者による町おこしを進めている。1月中旬からは動画投稿サイト「ユーチューブ」に“忍者の里”をPRするショートムービー7本を公開。市内には今も忍者がいるという設定で、公園を歩いていた高齢の夫婦が突然バク転したり、壁をよじ登ったりといった内容の動画を流している。視聴回数はすでに2万5000回を超えた。
また、甲賀流忍者復活祭のPRのため、2月中旬に市観光企画推進室の職員6人が忍者の衣装で業務を行った。忍者装束のまま市役所に自転車通勤した職員もいた。
甲賀流忍者調査団のメンバーらも「ニンジャファインダーズ」とロゴが入った帽子、ジャンパーを着用。専用ホームページも立ち上げ、活動内容を紹介している。
こうした取り組みの成果か、甲賀流忍者復活祭には県内外から約5000人が来場。忍者によるアクションショーや、手裏剣投げなどの体験イベントでにぎわった。「忍者の日」には市内各地を忍者集団が回り、小学校の給食で「忍者食」が提供されるなど、忍者一色に染まった。
忍者で官学連携
最近は県外からも「甲賀出身だった」「自分も53家と同じ名字」などと市に問い合わせが相次ぎ、訪ねてくる人もいるという。市観光企画推進室は「まずは市内の調査からと考えていたので、県外からの問い合わせの多さには驚いた。県外での訪問調査は難しいが、調査自体は継続的に進めていきたい」と話す。
今後は、市教委や大学などと連携し、より学術的な研究を進めていくことも検討。忍者というと、忍術を駆使し、雲隠れするような超人的なイメージが先行している。だが、実際の忍者はどうだったのか、イメージ通りの超人的な忍者は本当にいたのか-など、「グレーの部分を突き詰めていきたい」という。
伊賀流忍者で有名な三重県では、三重大学が平成24年から忍者の知識や忍術をまとめる「忍術学」の研究を開始。忍者の実態解明を目指している。甲賀市観光企画推進室の担当者は「滋賀県でも、三重県のように大学との連携が将来的にできれば、忍者の実態解明が進むと思う。今後は甲賀市だけではなく、忍者の研究やPRなど県内で広く展開できるようにしていきたい」と意気込む。
忍者は国内外で注目度の高いコンテンツだ。忍者にゆかりのある地方自治体や民間団体が連携し、観光客誘致や地域活性につなげようという「日本忍者協議会」が昨年10月に発足。滋賀をはじめ、三重、神奈川、長野、佐賀の5県5市が参加した。
狙いは、2020年の東京五輪・パラリンピックで海外からの観光客がさらに増えることをにらみ、世界へ「NINJYA」の魅力を発信すること。今後参加自治体を増やし、NINJYAを観光ブランドとして定着させたい考えだ。
その意味でも、甲賀市で始まった忍者調査は注目される。中嶋武嗣市長は「甲賀市が全国の忍者をリードしていければ」と話している。
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