和諧長城号(1)“万里の長城”まで…電車代は110円!?「安かろう悪かろう」かと思ったら…
江藤詩文の世界鉄道旅北京に来たからには、どうしても行きたいところがあった。それは“万里の長城”。ベタですみません。でも初めて北京を旅行するなら、ツーリストのほぼ全員が外したくない観光スポットなのではないだろうか。
春から夏にかけては、それこそ身動きの取れないほど混雑する。そう聞いてあえて氷点下10度以下を連日のように記録している真冬の北京に飛び立った。万里の長城へのアプローチは、もちろん鉄道。北京と万里の長城の起点を結ぶ列車「和諧長城号」が1日10往復ほどと頻発しているのだ。「和諧長城号」というドラマティックなネーミングも旅情をそそる。
私が乗車したのは、先頭から機関車、一等車3両、食堂車(売店)、二等車3両、機関車の9両編成。それなら行きは一等車、帰りは二等車を乗り比べてみたいと思ったが、真冬は寒すぎて空いている…はずだったのに、一等車はすでに売り切れ。立ち乗りも覚悟で二等車のきっぷを購入した。しかし後でわかったことだが、一等車の座席に空きがあれば、座ってしまって構わないそうで、いったい何のためにクラスが分かれているのか。なんだかキツネにつままれた気分。
それにしてもびっくりしたのは、運賃の安さだ。体感として、北京は東京より物価が3割ほど安いように感じたが、それにしても1時間半ほど乗って一等車で17元、二等車なら6元(約111円)というのは驚くべき値段ではないだろうか。東南アジアなどの経済的に貧しい国では、安い移動費に出合うこともあるが、その場合はボロボロの列車やまったくアテにできない運行状況もセットになってくる。
ところが、北京の場合はまったく不便さを感じない大都会で、列車はほぼ正確に運行し、混雑してはいるものの、列車自体は清潔で乗り心地も悪くない。国内旅行がこれだけ活性化しているのも、この運賃が一端を担っているのではないか。だってこの値段なら、休みの日に用がなくてもどこかへ行きたくなるのだから。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら
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