自然の力でセシウム拡散抑制 熊谷組など新技術 森林生態系守る

 
福島県飯舘村での実証実験の様子

 熊谷組は、グループ会社のテクノス(愛知県豊川市)、茨城大、日本原子力研究開発機構(JAEA)と共同で、粘土質の素材や高分子化合物を用い、里山など人が日常的に立ち入る森林地域から放射性セシウムが低地へと拡散するのを抑制する技術を開発した。原料は無害でコストが低く、降雨と雨水の流れという自然の力に委ねるため、通常の除染作業のように地面をはぎ取らずに済み、森林生態系を破壊することなく対処できるのが特徴。新技術は特許申請中で「実用化に向けてさらなる研究を進めていく」(熊谷組土木事業本部の田邉大次郎・事業部長)考えだ。

 傾斜地の森林の腐葉土にセシウムを吸着する粘土質のベントナイト粒子を散布し、植物のセシウム吸収を防ぐ。斜面の下側に高分子化合物「ポリイオンコンプレックス(PIC)」の溶液をまく。ベントナイトは表面にマイナスの電荷を帯びる特性があり、溶液の電荷をプラスにして雨で流れ出るベントナイトを捕捉する。

 ベントナイトに吸着しなかったセシウムは、水に溶けてプラスの電荷を帯びる特性を備えているため、電荷をマイナスにした溶液をさらに低い場所にまいて捕捉し移動を抑制する。

 新技術は福島県飯舘村の里山で実証実験を実施。開始して3カ月後にベントナイトとPICを使った区域と使わなかった区域のセシウム濃度を調べた。

 それによると、使わなかった区域はセシウム濃度が斜面の上方から2.5メートル地点で最大だったのに対し、使った区域は1メートル地点で最も大きくなり、より多くのセシウムが斜面上部に留まっていることを確認した。今後はPICを染みこませたもみ殻の袋を使い、適所に配置することによってセシウム除去につなげていく。

 ベントナイトは歯磨き粉や止水材、PICはアイスクリームの増粘剤やリンスの成分などに日常的に使用されており、粘土と同様に無害で大量に調達できる。価格も安い。また、もみ殻などは現地調達が可能なため、農業を続ける地域の人々に対して経済的な助けになるとも指摘している。

 政府は3月、これまで主に住居など生活圏の近隣の森林を対象にしていた除染エリアを、里山内にまで広げる検討方針を示した。これにより里山再生の対策の一つとして、セシウムの植物などへの移行を抑制する技術への関心が高まっている。