ドローンの利活用探る動き、宅配や検査に 警戒サービスも本格化

 
パナソニックが提案していた橋梁などを検査するためのドローン

 空中を飛んで人の目が届かない場所を撮影したり、渋滞に巻き込まれないで物を運んだりできるUAV(無人航空機)への関心が高まっている。ドローンとも呼ばれるこうした装置を使って、新しいビジネスを模索しているところも増えている様子。最近でも2つのドローン関連イベントが開かれ、撮影や測量、配送といった方面でドローンを利活用する提案を行っていた。

 4月20日から22日まで、日本能率協会が千葉市美浜区の幕張メッセで開いた第2回国際ドローン展。22日には地元の千葉市から熊谷俊人市長が出席して、「国家戦略特区 千葉市が目指す近未来技術実証・多文化都市 ~ドローン活用による都市活性化~」のテーマで講演して、幕張新都心をはじめとした周辺地域を、ドローン産業にとっての“聖地”にしていきたい意向を表明した。

 幕張新都心では4月11日、熊谷市長も参加して、内閣府によるドローンを使った宅配の飛行デモンストレーションが行われて話題になった。ドローンでワインを商業施設の屋上から近くの広場まで運び、続いて平地から10階建てマンションの屋上へと運び上げるというもの。進化が著しいドローンの性能からすれば、決して難しい作業ではないが、時には強風も吹く湾岸地域だけに、見守る関係者たちも最後まで気を抜けなかった。

 このデモについて講演で振り返った熊谷市長は、「ドローンを使った宅配の実験は、すでに山間部や島嶼部では行われている。それは公益的な価値は高いが、都心部でできなればビジネスとしての広がりは難しい」と話して、オフィスや商業施設、住宅が建ち並ぶ幕張新都心で、ドローン宅配の実現性を見せられたことを評価した。

 「EC(電子商取引)の需用が伸びて宅配のニーズは高まっている中で、労働人口の現象もあって輸送人員は足りていない。物流・宅配の部分で代替手段としてドローンの価値はある」と熊谷市長。「処方箋医薬品であるとか要指導医薬品といった、軽量だが緊急に必要性が高い薬品類を宅配するニーズがあるのでは」と話して、テレビ電話などを使って相談を受け、薬品を湾岸の拠点から居住場所まで宅配するサービスの可能性を示唆した。

 「(幕張新都心の)若葉地区は、これから複数の超高層マンションが整備されていく。実証実験の結果を設計に取り入れていくことで、ドローン宅配に適したマンションや住宅を作ることができるのでは」とも話して、ドローンが物流インフラに組み入れられた都市の構想も示した熊谷市長。国家戦略特区として規制緩和の適用を受け、実証実験を重ねる一方で、モーターや電池といった関連企業も誘致して、「ドローン産業を千葉市に集積していける」と目論む。

 「住民の理解が必要。ルールの確立に向けて議論していきたい」。地域の発展を担う市長として、産業面、安全面の両方からドローンの活用を探っていく姿勢を示して、講演を締めくくった。

 第2回国際ドローン展には、今後どのようにドローンを利活用していくか、といった視点からさまざまな展示が行われていた。「まごころサポート」という、新聞販売店のチャネルを使って、便利屋のようなサービスを請け負う仕組みを提供しているMIKAWAYA21(東京都港区)では、地域の販売店からドローンを使って宅配するサービスを提案していた。

 今年2月には徳島県那賀町で、販売店から飛び立ったドローンが50メートルの高度で500メートルほど離れた場所に飛んでいき、5分でゆで卵2個と牛乳500ミリリットル、食パン1斤を届けて帰ってくる実証実験を行った。山間部などに暮らすお年寄りは、歩いて近所の店に行って買い物をするのは難しい。徒歩では往復で30分はかかる山道でも、ドローンなら高度差を気にせずに短い時間で届けてくれる。地域の過疎化や労働人口の減少などに対応し、高まるドローン宅配への期待を実現に向かわせる実験だった。

 展示会にはほかに、NEC(東京都港区)がトンネルや橋梁などの壁面に向けて飛ばし、映像で見るだけでなく、表面を叩いてひび割れなどがないかを検査できるドローンを展示。パナソニック株式会社AVCネットワーク社(大阪府門真市)も、ドローンメーカーのプロドローン(名古屋市中区)と共同で、四角く囲われた中に4つのプロペラを搭載し、飛び上がっては壁面に張り付き、タイヤで転がりながら表面に破損がないかを撮影して調べるインフラ点検ソリューションシステムを提案していた。

 人間の目や手が届かない場所にこそ、ドローンが活躍する余地がある。同じ幕張メッセで3月24日から26日までに開催されたジャパン・ドローン2016(主催・一般社団法人日本UAS産業振興協議会)でも、出展者が同じようなソリューションを披露していた。リコー(東京都中央区)はジャイロセンサーで常にドローンを水平に保ちつつ、周辺をぐるりと球形の網で覆って、ドローンが橋梁に当たって落下しないよう工夫していた。富士通(東京都港区)は、ドローンの両端に車輪のようなガードを付け、カメラ自体は水平に保ちながらも橋桁の下を移動させていく方式を提案していた。

 リコーでは、180度に迫る広角のカメラを装備して、ドローンがGPS(全地球測位システム)に頼らなくても、障害物に当たらないで進めるステムを提案していた。GPSが使えない倉庫のような屋内や、障害物に覆われた被災地でも、このシステムがあればドローンを使って物を探し、被災状況の把握も行える。

警備の分野でもドローンの活用が始まりそうだ。セコム(東京都渋谷区)は両方の展示会に出展して、事件が起こればドローンを発進させて犯人を追跡する、日頃から周辺の状況を記憶しておき、見知らぬ車が止まっているような違いが生じれば警告する、といった運用方法を提案していた。

 セコムでは、飛来してくるドローンを警戒するシステムも提案。レーダーで探知し、集音マイクで音を捉え、カメラで本体を識別して未知のドローンかを判断する。捕獲は難しいが、警戒態勢を整えていることを示せば、ドローンを飛ばして侵入・偵察しようとする目論見を抑止できる。

同業の綜合警備保障(東京都港区)でも、ドローンの警戒システムをドローン・ジャパン2016に出展していた。低価格化と高性能化が進むドローンの悪用も懸念されるなか、警備会社のサービスにドローン対策も重要なメニューとして加わってきているようだ。