いきなりステーキ社長 ペッパーランチ事件から一転、成功収めた「賭け」 (3/5ページ)

妻との思い出

「ある日スナックで酔っていると、私の行き付けをどうやって知ったのか、バッチリ化粧をした妻が店に来て、僕の隣に座るから驚きましたよ。しかも、彼女は怒るのでなく『私が綺麗にしてないから外で遊ぶんだよね?』と謝るんです。これで目が覚めないわけないじゃないですか」

 余談だが、この奥さんの話には続きがある。

 「40代の時には、飲食コンサルタントの先生に『奥様を店のスタッフから外すべき』と言われました。数店舗の経営であれば妻に頼ってもいい。でも『会社を大きくしたいなら社員教育も経理もプロの意見を聞くべきです。しかしそんな時、たいていは奥様が、今のままでいいじゃない、と反対し始めます』と仰るのです。そこで私が言われた通り妻を外すと、彼女はそれ以来、毎晩どこかへ出掛けるようになりました。知人に聞くと、なぜか銀座のすし屋さんで働いているらしい。

 私は夜、すし屋さんに妻を迎えに行き、理由を聞きました。すると妻は、『あなた、おすしはいいよ。肉と違って、熱々でなくていいから調理が難しくない』と言うんです。妻は、店を外されても私の店のことが気になって、飲食の仕事を学ぼうと外に働きに出たんですよ。彼女の強い想いを知り、私はすぐ『申し訳ない!』と謝り、翌日から店に復帰してもらいました。

 そんな妻が病魔に勝てず世を去ったのは、彼女が49歳の時でした。葬儀店の方が、妻を入れたかんおけを持って行ってしまう。私は『連れて行かないでくれ!』とすがりました」

 彼は「ああ、なぜもっと優しくしておかなかったんだろうと思いましたよ」と目を真っ赤にするのだった。

「ペッパーランチ」の創業と落とし穴