成果主義には管理職の総賃金予算を管理して、人件費を削減させる狙いが会社側にはあった。バブルが崩壊し、経済環境が悪化していく時期とも重なっていたが、上司の権限は強くなっていく。「短期的な成果を優先する上司が増え、上司として本来は最も重要である部下の育成がおろそかになった」(電機メーカー首脳)という指摘もある。
一方、工場現場でも90年代から、飲み会は影を潜めていった。80年代まで、自動車工場において若手ワーカーは、匠である先輩の技を働きながら盗んで育っていた。昼間は鬼のように厳しい先輩たちは、夜になると必ず飲みに連れて行ってくれる。「ビールを飲みながら『なぜ叱ったのか』を膝詰めで説明してくれる先輩もいた」(自動車メーカー元幹部)。ちょっとしたミスであっても、工場現場では重大事故へとつながってしまう。昼の仕事だけではなく、酒を介したコミュニケーションにより技術は伝承されていたのである。
ところが、バブル末期から工場にスピードが求められていき、マニュアルが現場に配布されるようになる。叱ったり、飲み会で説明したりといったコミュニケーションは消えていく。そもそも過度に叱るようなら、昨今はパワーハラスメントとのそしりを受けてしまう。しつこく、飲食に誘うのも、若い者には敬遠されがちだろう。