仲間の苦境を目の当たりにした杉野さんは13年前、一大決心をする。同業者で集まる勉強会「技術伝承講座」をつくることにしたのだ。
中小企業が生き残るには同業や異業種と提携して共同開発していかなければならない。「ゴム部品メーカーの多くは下請け仕事で、スペック(仕様)通りのものをつくるだけ。それではいけない」と問題意識を話す。
「葛飾ゴム工業会」の会員企業を中心にスタートした勉強会だが、伝統的に「技術は門外不出」の気風が強く、同業者同士の交流は少ない。杉野さんの呼びかけにも6社が呼応したにすぎなかったが、今では葛飾区以外の企業も含め約30社が参加し、事業提携も進んできた。
たとえば杉野さんの発想で、ゴムを生かした製品アイデアを練った。そこで生まれたのがゴム製の家具転倒防止グッズ「地震耐蔵(じしんたいぞう)」。家具の前方の床との接地面に挟み込むだけで、震度6強の揺れでも家具は滑らず倒れないという優れものだ。東日本大震災後、一時在庫切れになるほど売れたという。
「江戸っ子1号」も、この勉強会から生まれた。
大阪が空なら東京は海で
5年前、大阪の町工場が連携して小型の人工衛星「まいど1号」を開発したニュースを聞き、「大阪が空なら東京は海でいこう」と思い、周囲にこの構想を話した。当初、反応は薄かったが、取引先の東京東信用金庫の支店長に話すと「夢があっていい」と芝浦工業大学に紹介してくれた。