環境激変…関西の郊外型百貨店で撤退相次ぐ 2つの大きな誤算

 
イオンモール堺北花田=堺市北区。堺北花田阪急は平成29年7月末で営業終了する

 関西の郊外型百貨店で明暗が分かれた。阪急阪神百貨店などを運営するエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングは堺北花田阪急(堺市北区)を平成29年7月末、セブン&アイ・ホールディングス傘下のそごう・西武も西武八尾店(大阪府八尾市)を29年2月末に撤退。すでに近鉄百貨店は26年に桃山店(京都市伏見区)を閉めた。郊外店舗は訪日外国人の“爆買い”特需もないうえ、近隣に大型ショッピングセンター(SC)開業が相次ぐなど事業環境は厳しい。そうした中、北摂・阪神地域では沿線の阪急ブランドをフル活用した戦略もみられた。(大島直之)

 2年連続赤字で見切り

 堺北花田阪急は平成16年10月、大型SC「ダイヤモンドシティ・プラウ(現イオンモール堺北花田)」の核商業施設として開業。当時、SC内に百貨店が入居するという斬新な試みとして注目された。ピーク時の年間売上高は100億円以上あったが、時代を追うごとに伸び悩み27年3月期には営業損益が赤字に転落。28年3月期の売上高は前期比5・3%減の88億円、営業利益は2億円の赤字だった。

 西武八尾店は近鉄八尾駅前に昭和56年に開業し、ピーク時の売上高が380億円を超えたが、平成28年2月期の売上高は155億円とピークの約4割にまで落ち込んだ。

 18年にはセブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂のSC「アリオ八尾」が隣接地に開業し、百貨店とSCによる相乗効果も期待されたが、復調にはほど遠かった。

 特に堺北花田阪急は開業から11年ほどしか経っておらず、あまりにも早い撤退が業界に与えた衝撃は大きかった。業界で「勝ち組」とされる阪急阪神百貨店がわずか2年連続の赤字であっさり見切りをつけたのは、事業環境をめぐって2つの大きな誤算があったためだ。

 百貨店の高付加価値には限界も

 誤算の1つは立地をめぐる事業環境の激変だった。大阪府南部でショッピングモールやアウトレットモールなど大型商業施設の進出が相次いだことから、利用客数や売り上げに大きな逆風となった。

 26年10月にららぽーと和泉(大阪府和泉市)、28年3月にイオンモール堺鉄砲町(堺市堺区)が出店。アリオ松原(大阪府松原市)も29年以降の開業準備を進めている。

 特にイオンモール堺鉄砲町は、イオンリテールが堺北花田阪急と同じSCに入居しているにもかかわらず、直線距離5キロメートル未満の近距離に開業したことに「イオン同志で顧客を食い合うのでは」と懸念する声もあった。

 また、大阪市営地下鉄御堂筋線で約10分に立地する近鉄百貨店本店(大阪市阿倍野区)が26年2月にあべのハルカスの完成と合わせて全面開業。近鉄百貨店本店自体は当初計画に比べ苦戦しているものの、堺北花田阪急にとって大型百貨店の立ち上がりは少なからず影響はあったとみられる。

 2つ目の誤算が、26年4月の消費税増税による影響で想定以上に売り上げが落ち込んだこと。それまで堺北花田阪急は売上高100億円以上、営業利益1~2億円で推移していたが、26年春から低迷基調に陥った。阪急阪神百貨店の林克弘専務は「さらにここにきて節約志向の高まりもあり、百貨店ならではの高付加価値をしようにも限界がある」と説明する。

 求められるビジネス戦略の転換

 節約志向が高まる中、日常生活の密着した展開が求められる郊外店舗だが、阪急阪神百貨店は大阪北部の北摂地域、兵庫県の阪神地域の店舗で健闘している。

 存在感を発揮できるのは、顧客ニーズや商品展開などで強みを持つ阪急百貨店の独自のマーケティング力と、阪急沿線に立地することによるブランド力だ。

 このエリアで展開する千里阪急(大阪府豊中市)、西宮阪急(兵庫県西宮市)は、27年11月のエキスポシティ(吹田市)の開業で苦戦も予想されたが、今のところ大きな影響は出ていない。28年3月期の前期比売上高は千里阪急が1・2%増の167億円、西宮阪急が1・4%増の251億円、川西阪急(兵庫県川西市)も0・7%減の166億円で、エキスポシティが秋開業だったことを考慮しても大きなマイナスにならなかった。

 このエリアでは阪急のブランド力をフル活用して生き残りを図る。それが可能だということだ。阪急阪神百貨店の林専務も「(沿線でない)大阪南部では厳しい競争環境にあったが、阪急沿線の北部はブランド力が浸透しており、勝負ができる」と強調する。

 また、近鉄百貨店も奈良店(奈良市)で独自の試みを始めている。店内に今年4月、奈良県内初の東急ハンズをオープンさせるなど全国的にも集客力のある専門店の誘致に乗り出し、競争力を高める狙いだ。

 郊外では今後も大型商業施設の進出が続くとみられる。百貨店各社が伸び悩む中、郊外店舗の撤退は避けられないかもしれない。郊外店舗にとっては厳しい状況だが、ビジネス戦略の転換も求められる。