リニア延伸前倒しは諸刃の剣 都市力劣れば“東京都大阪区”になる恐れも?

 

 骨太方針にリニア中央新幹線の大阪への延伸前倒しに向けた政府支援が盛り込まれ、関西経済界や沿線自治体は、リニア効果を取り込むための都市政策の推進が急務となる。東京との時間距離の大幅短縮は、関西からの人材や企業の流出を止めるチャンスだが、都市の魅力が高まらなければ、逆に首都圏や東海への移転を加速させる恐れがある。関西経済界が目指す医療や観光資源の充実を柱とする成長産業の確立は待ったなしだ。(牛島要平)

 関西企業、1年の開業遅れで1500億円損失

 骨太方針には、低利で長期資金を貸し付ける財政投融資の活用の検討が明記された。建設主体のJR東海の金利負担を抑えて、総額9兆円にのぼる費用負担を圧縮する枠組みを作り、大阪延伸を早期に実現させる狙いだ。

 大阪府・市と関西経済3団体などによる「リニア中央新幹線全線同時開業推進協議会」が平成26年7月に結成され約2年。官民一体で東京-大阪の全線同時開業を訴えてきた関西にとって、今回の骨太方針の閣議決定は大きな前進だ。あくまで、関西経済界は、39年の全線同時開業の旗は降ろしていないが、大阪延伸に向けた具体的な道筋がようやくみえたからだ。

 アジア太平洋研究所(大阪市)の試算では、名古屋-大阪のリニア開業が1年遅れるごとに、関西企業は営業利益の2・1%に相当する1489億円を失う。自動車産業が盛んな東海地域との競争に危機感は強かった。

 「全線同時開業が難しくても、名古屋に18年も遅れることが絶対にあってはならない」。大阪延伸について「平成28年度の最重要課題」と位置づける関西経済連合会の森詳介会長(関西電力会長)は5月23日の会見でこう強調した。

 「東京都大阪区」への懸念

 リニア全面開業で期待される最大のメリットは、ヒトの流れが活発化して経済活動が刺激されることだ。

 りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は、「首都圏と関西の移動がしやすくなり、訪日外国人に関西の観光資源をセットで売り込みやすい状況が生まれる。高齢社会に対応した先進的な街づくりで特色を打ち出せば、首都圏から人を誘致するきっかけにできる」と語る。

 ただリニア全線開業は、関西の存在感を低下させるもろ刃の剣にもなりえる。

都市力が見劣りすれば、リニアが東京や名古屋にヒトやカネを吸い上げるストローになる恐れがあるためだ。

 「リニア全線開業で大阪は“東京都大阪区”になりかねない。東京あっての大阪ではなく、世界の中で存在感のある大阪であらねばならない」。日本総研関西経済研究センターの広瀬茂夫所長はこう指摘。関西経済をこれまで牽(けん)引(いん)してきた重工業、家電産業に代わる新たな成長産業の育成を強く訴える。

 都市力向上、不可欠

 関西経済界も手をこまねいているわけではない。

 関西経済同友会は28年度事業計画で「次の成長産業の創出」を重点課題の一つに掲げた。「世界・アジアから注目される医療都市」への変貌を目指し地域にある大学や大学病院の連携、ビッグデータの集中管理などの提言を検討。国際会議やカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致によるインバウンド(訪日外国人)需要の取り込みも課題に据える。しかし、実現には、企業や大学、自治体間の難しい調整が必要だ。

 今後は大阪延伸に向けて、途中駅の選定なども大きな問題になるとみられる。政府、JR東海が大阪延伸の前倒しに動いた中、関西が一丸となれるかが、早期全面開業のカギとなりそうだ。