新日鉄住金、ブラジル事業で苦境 出資企業が大赤字、株主対立で再建迷走

 
ウジミナスのイパチンガ製鉄所=ブラジル・ミナスジェライス州

 新日鉄住金のブラジル事業が正念場を迎えている。3割弱を出資するブラジルの鉄鋼メーカー、ウジミナスの経営が迷走を続け、再建が進まないためだ。背景には、別の大株主で同程度の株を保有するアルゼンチンの鉄鋼メーカー、テルニウムとの対立がある。対立は、経営トップの人選や資金調達に及び、泥仕合の様相を呈している。

 ウジミナスは、1958年に国営企業として設立された。旧新日鉄が当時から出資して技術支援を行い、2006年に持ち分法適用会社とした。三菱商事などの少数持ち分を含めると、日本企業が今年3月末時点で、普通株の29.45%を保有している。

 一方、テルニウムは12年に現地の非鉄鋼メーカー2社から保有株を引き継ぎ、経営に参画。27.66%を取得し、大株主が並ぶ状態となっている。

 両社の対立が表面化したのは、14年9月にテルニウムの派遣したCEO(最高経営責任者)を含む役員3人が、不正に報酬を受け取ったとして解任されてからだ。

 両社は、ブラジル独自の制度である株主間協定に参加しており、重要な決定では互いの事前同意を得ることになっている。テルニウム側は不正を認めず、新日鉄住金の「協定があるからといって、不正は看過できない」とする姿勢に不満だった。

 対立は、今年に入って再燃。ウジミナスは現在、ブラジル経済の低迷や、過剰設備を抱える中国メーカーの安値攻勢で、巨額の赤字に陥っている。財務改善のため、3月に約300億円の増資を決めたが、新日鉄住金が引き受ける意向を示したのに対し、テルニウムは当初反対して資産売却を主張した。

 5月下旬には、逆にテルニウム主導で行ったCEOの交代に新日鉄住金が異議を唱え、解任の無効を求める訴えを現地の裁判所に起こした。「株主間協定に反する」のが理由だ。

 しかし、無効が認められたとしても、株主間協定の有効期間は31年まで。今の状態が続く限り、新日鉄住金が経営の主導権を握れる可能性は低い。

 同社は来年3月に日新製鋼を子会社化するほか、国内設備の合理化を加速するなど、投資を増やしている。仮にテルニウムが株を手放すとしても、予定外の出費は避けたい。一方、経済が悪化しているとはいえ、ブラジルは鉄鋼需要の中長期的な拡大が見込まれる有望市場だ。深いつながりのあるウジミナスという拠点は手放したくない。

 となると、ウジミナスの立て直しは現状の中で解決するしかないが、妥協の余地は小さい。今月1日には、両社がウジミナスの分割協議に入るという一部報道に対し、新日鉄住金が「そのような事実はない」と否定する場面もあった。

 他のメーカーに比べると業績堅調な新日鉄住金も、海外事業は赤字で、収益改善が急務だ。中長期の成長には海外展開の加速は欠かせないだけに、重要市場でのつまずきは痛い。(井田通人)