なぜ佐川急便はアマゾンから撤退したのか 極度の便利さと安さの代償
提供:PRESIDENT Online燃料費の低下で、一息ついている運送業界
物流企業の人事・給料の特徴について考えてみましょう。
運輸・物流業は、長い間、非常に厳しい経営環境にさらされてきました。
1990年(平成2年)に施行された貨物自動車運送事業法では、参入規制が免許制から許可制に変更されたことにより、運送事業者が大幅に増加し、その後の約20年間で1.5倍以上に増えています。さらに、同法では運賃の認可制が事前届出制に緩和されたため、運賃の低価格化も進みました。
このような規制緩和は、運送業界に激しい価格競争をもたらすに至っています。その一方で、運送業の主要コストであるトラックの燃料費は、長らく高止まりの傾向が続いていました。
価格競争が激しい中で、燃料費のコスト増が続けば、当然、事業者には厳しい経営のかじ取りが求められることになります。昨年からの石油価格急落による燃料コスト低下で一息ついているものの、またいつ価格が反転するか予断を許しません。
一方、顧客の視点に目を向けると、荷主からのニーズは年々高度化しており、運送事業者には柔軟な対応力が必要不可欠となっています。
たとえば、近年では、荷主が自社の物流業務を一括で物流業者に委託する動きがあります。運送業者にとっては、顧客企業の物流部門を代行することになるため、これまで以上にきめ細やかなサービスを提供していかなければなりません。
そのため、荷主のニーズを的確に把握した上で、それに応えられるだけのノウハウや人材を蓄積していくことが重要となります。
かつてのように、荷主からの依頼業務を単にこなしていくだけでなく、運送業者が自発的に様々なサービスを、荷主企業に対して提案していくことも必要なのです。
年齢による昇給が見込みにくい物流業界
グラフは、企業規模ごとの年齢別・年間賃金(時間外手当含む)の比較です。この業種の特徴は、年齢による給与水準アップが見込みにくいことです。
ドライバーや倉庫作業に従事する人材の割合が多く、経験年数に比例して仕事の生産性が上昇していく業務が少ないからです。
たとえば、トラックで東京から大阪まで荷物を運ぶとします。不慣れな新人を除けば、3年目の若手運転手も30年目のベテラン運転手も、到着スピードに大きな差はありません。
ベテランになれば、渋滞する時間帯や裏道に詳しいといったことはあるかもしれませんが、カーナビ機能や会社からの情報提供で十分補えます。むしろ、荷物の積み下ろしなどは、体力に勝る若手の方が早いかもしれません。
仕事の生産性に変わりがなければ、年功賃金を維持することは困難です。物流業界の経営環境の厳しさは、ドライバーなどの賃金や労働環境にシワ寄せを及ぼしているのです。
このような状況は、当然「ドライバー不足」というかたちで、物流会社に跳ね返ってきます。
高齢化と若年層の業界離れが進む中で、現時点でもすでにトラック運転手は不足の状況にあります。さらに、このままの傾向が続くと、将来的にはより深刻なドライバー不足に陥ることとなり、国内の物流全体に大きな支障を及ぼす恐れも危惧されています。
運輸・物流業界は、典型的な労働集約型産業です。いかにしてドライバー不足の問題に対応するかが、全ての運送事業者にとって大きな課題になっているのです。
これらは、物流業界だけでなく、バス会社など旅客業界も同様です。路線バスも観光バスも、慢性的な人手不足です。
確かに、注文した荷物がその日のうちに届くネット通販、新幹線の3分の1程度の料金で利用できる深夜バスは、便利な社会といえるでしょう。しかし、すでに佐川急便はAmazonとの取引から撤退しました。
いずれ、ヤマト運輸も撤退しないとは言い切れません。また、格安ツアーにおける高速バスの事故も繰り返されています。極度な便利さと安さの代償は、結局利用者に跳ね返ってくるのです。
(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口俊一=文)
関連記事
- なぜAmazonは低賃金にあえぐ小売業界を潰すのか?
- 人手不足は少子化の問題にあらず
- セブンvs.Amazon戦争勃発! 安売り時代の終焉とオムニチャネル時代の到来
- うッ、そうだったのか! 小遣い0円、買いだめ、特売品…間違った節約術
- 常軌を逸した日本の「貯蓄格差」 貯金ほぼゼロ、生活破綻寸前の人もいる?
- シングルマザーが年収1500万円世帯に負ける場合も… 待機児童が減らぬ理由
- “ショーンK系”ホラッチョ男子 すごい経歴、カタカナ連発…あなたの隣にも?
- 東大卒でも“超お金持ち”は意外に少ない? 学業に秀でているのは確かだが…
- 大学生の就職したい仕事、堂々の1位が「地方公務員」という絶望感
- その他の最新ニュースはこちら