昨日の友は今日の敵、敵の敵は味方なのか 自由化で乱戦模様の電力業界

 

 電力小売りの全面自由化が春に始まり、関西電力や東京電力など在来の電力会社は、これまでの縄張りを越えて相争うことになる。また同じエネルギー会社として棲み分けてきたガス会社などとも戦う。ただ敵味方を分ける線引きは単純ではない。各社は自由化前に築いた協力関係をひきずり、原発事故後に深めた連帯も残る。それぞれ握手しながら攻め合う展開となる。

 東電のせいで…

 電力小売りの自由化は電力システム改革の一部で、「発送電分離」の前段階にあたる。在来の電力会社を発電部門と送電部門に切り分け、発電会社を競わせることで電気料金を引き下げようという政策だ。民主党政権下、東電福島第1原発事故をきっかけにレールが敷かれた。

 地域独占で安定した経営を維持してきた東電以外の電力会社には、迷惑な話だったに違いない。さらに「原子力損害賠償支援機構法」により事故の賠償金まで背負わされた。

 同法は、福島事故対策を進めつつ、将来の事故に備えて原発を持つ各社が連帯して賠償資金を拠出するというもの。東電の清水正孝社長(当時)が事故を受けて電気事業連合会会長を退き、後任に就いたばかりの関電の八木誠社長にとって、受け入れ表明は大きな決断だった。

 業界の拠出額は2011~14年度で計5954億円に上る。このうち東電は最も多い2687億円を、次いで関電が971億円をそれぞれ拠出している。

 提携と敵対と

 一応、賠償負担の整理がついた東電は業績も回復。今後の賠償を円滑に進めるためにも成長は不可欠との立場で、電力システム改革の波に乗って早急に足場固めをする構えをみせる。

 象徴的なのは中部電力との火力部門での提携で、合弁のエネルギー会社、JERAを設立している。発送電分離もにらみ、火力発電部門の競争力を高めるのが狙いで、液化天然ガス(LNG)の購入もまとめて価格交渉力を高める。LNGの転売でもうけることも視野に入れるという。

 一方で、電力小売りで、中部電と東電は相互に縄張りに乗り込む。トヨタ自動車や関連企業を抱える地域を持つ中部電にしても、首都圏の家庭向けは魅力的だ。東京ガスなど在来型ではない「新電力」も首都圏を主戦場と見定めていることから東電はシェア低下を覚悟し、中部圏と関西圏に進出して取り戻すという。

 攻め込まれる関電も関東圏への進出を決めている。また関電は今後、原発再稼働が進めば発電コストが低下、もともと原発比率の少ない中部電の供給エリアに攻め込みやすくなる。

 長らく横並びだった電力業界は乱戦模様だ。そこには、かつて電力会社と友好関係にあったガス会社も加わる。東京ガスは首都圏で、大阪ガスは関西圏で電力小売りに参入。一方で東電はLPガス(プロパンガス)業者と提携した。

 ガスが結ぶ縁

 電力各社は、原発事故前は、ガス会社も巻き込んでコスト削減に取り組んできた経緯がある。08年のリーマン・ショックまでは、好景気と新興国の成長で資源不足が懸念されたことが背中を押した。

 例えば、インドネシアのLNG事業では、関電、中部電、九州電力、大ガス、中部地方の東邦ガスなどが名を連ねる。また、大ガスと中部電は天然ガスパイプライン「三重・滋賀ライン」を共同で敷設。カナダのシェールガス開発プロジェクトでは中部電、東ガス、大ガスなどが組む。

 10年ごろから始まった中東・北アフリカでの民主化運動「アラブの春」で石油・ガスの供給力が低下するリスクが高まり、日本のエネルギー会社は絆を強めていった。それが東電の原発事故で景色は激変し、自由化の春が訪れる。

 昨日の友は今日の敵、敵の敵は味方、そんな言葉がぴったり当てはまるエネルギー業界。合従連衡のうずみ火が散在している。