あの「デロリアン」が古着で走る! 30年来の夢の世界を現実化する技術

 
衣料品に含まれる綿から抽出したバイオエタノールを燃料にして走る「デロリアン」と日本環境設計の岩元美智彦社長=さいたま市北区

 1985年に製作された名作SF映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(BTTF)。この作品に登場する車型タイムマシン「デロリアン」が飛び立った未来が、2015年10月21日。映画と同様、使わなくなったものを燃料に車をこの日走らせようというプロジェクトが進んでいる。映画で描かれた世界が、30年の時を経て、現実の世界で再現されようとしている。

 映画に感銘受け起業

 「FUKU-FUKU×バック・トゥ・ザ・フューチャー GO!デロリアン走行プロジェクト」は、リサイクルインフラの構築に取り組むベンチャー企業、日本環境設計(東京都千代田区)と同映画のDVDソフトを発売するNBCユニバーサル・エンターテインメントジャパン(同)が共同で企画した。

 大型商業施設など約1450カ所に置かれた回収箱で、古着など着なくなった衣料品を回収。愛媛県今治市にある日本環境設計の工場に持ち込み、専用のプラントで、衣料品に含まれる綿を糖化、発酵をさせ、純度5%のバイオエタノールを精製。さらにこれを外部の協力を得て同99%まで上げガソリンとの混合燃料を完成させる。

 この燃料を使って、米フロリダ州から運ばれた復元車両「デロリアン」を走らせるイベントが10月21日、東京都内で実施される。これに先立ち、8月29日から、全国各地の大型商業施設で実車の展示イベントを開き、衣料品の持ち込みを呼びかけている。

 日本環境設計の岩元美智彦社長(51)は「この会社を立ち上げた最も大きな動機が、この映画だった」と話す。当時、大学生だった岩元社長がBTTFを映画館で鑑賞したとき、使われなくなったものが資源となり、その資源でデロリアンが走る姿に大きな感銘を受けた。

 「未来はごみが資源になる。その世界を自らの手で作りたい」。そんな強い思いで会社を立ち上げ、30年来の夢の世界を現実のものにしようとしている。

 日本環境設計が開発した綿からバイオエタノールを作り出す技術は、2007年、大阪大学と共同で開発した。綿を特殊な溶剤で溶かし、綿とそれ以外の成分とを分離、綿を取り出す。

 バイオエタノールはトウモロコシなどの穀物から作られるのが主流だが、その製造に欠かせないのが炭水化物のセルロース。同社はこのセルロースが綿にも含まれていることに着目した。

 現在、生産されたバイオエタノールはボイラー燃料として地元のタオル染色工場に供給されている。またポリエステルなどの綿以外の成分はコークスや炭化水素油などとして工業用の原燃料として姿を変える。

 再利用、わずか15%

 日本では年間250万トンの繊維製品が消費され、そのうちの200万トンが廃棄物として排出される。この廃棄物からリサイクルされるのはわずか15%程度にすぎないという。

 衣料品の多くは綿とポリエステルなどの複数の素材を使った混紡のため、ほぼ単一の素材でできているビンや缶、ペットボトルと比べ、リサイクルがしにくかったからだ。

 また、一旦排出された廃棄物がどう処理されているのかを理解している消費者は多くない。そこで同社は、回収拠点がある大型商業施設で、工作教室などのイベントを企画している。

 高尾正樹専務(35)は「全国の消費者にリサイクルを身近に感じ、気軽に参加してもらえるような仕組みが欠かせない」と考えた。

 流通各社も売り場に体験的要素といった付加価値を付けることで、幅広い集客が可能になり、同社と消費者、流通との3者がうまく共存できる関係を築いた。

 新興国の経済成長などにより、化石燃料の利用が増え、2035年の世界のエネルギー需要量は11年の約1.3倍になると見込まれる。資源獲得をめぐった国家間の競争が激しくなるなか、リサイクル率が低い衣料品のリサイクルは、日本のエネルギー安全保障の強化につながる可能性も秘めているといえそうだ。

 岩元社長は「将来的には回収した服をもう一度、服に戻す技術を確立させたい」と、デロリアンの次の夢を見据えている。(松村信仁)