ミラノの創作系男子たち

「生活とは何かを考えさせる国」選んだ日本人の遍歴 独自の想念が作品生む (3/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 ところで廣瀬さんが作品を制作するミラノのアトリエは元倉庫を改造した空間だ。その内部に、もう一つの家とも呼ぶべきスタジオを自らの手で構造体から作っている。鉄の骨組みで二階部分に部屋を載せ、そこに書庫や事務仕事ができるスペースがある。ベッドもある。シャワーボックスやトイレあるいはキッチンまで自作だ。

 実は、10年くらい前の「住めるアート作品」である。完成直後にぼくはこの部屋に泊まったが、ベッドのなかで「アートとは何か?」を考えながら眠りについた。ギャラリーのなかで寝ているような気分だった。

 廣瀬さんは20年以上前から香りを作品に取り入れることに熱心で、レモンやカレー粉を床に敷き詰めたインスタレーションもある。その時は、五感の一つの要素としての嗅覚への注目と理解していた。しかし、10年を経過して夜中の真っ暗な時間の「住めるアート作品」を体験することで、作品を頭で理解するのはコンセプトの言語化を指しているのではないと思い至った(よく耳にするセリフ「アートは頭で理解するものではない。言葉は不要だ」は如何に的外れか!)。

 「イタリアは生活する、生きるとは何かを徹底して考えさせてくれる国なのですよね」と家を自作した彼が語る言葉は、ぼく自身が同じような時間をイタリアで過ごしてきて似たようなことを思うのと、どこか違うだろう。

 その彼の語りが2020年4月10日から前橋市立美術館「アーツ前橋」で味わえる。世界各地の展覧会に参加してきたが、日本の美術館での個展は20年ぶりである。分かりやすいアイコンをつくることを拒否し、軽やかであることを選んできた廣瀬さんが、自らの思想の遍歴を披露する。

 ぼく自身もそれらの作品群をみて、また「なるほど」と思うに違いない。

安西洋之(あんざい・ひろゆき)
安西洋之(あんざい・ひろゆき) モバイルクルーズ株式会社代表取締役
De-Tales ltdデイレクター
ミラノと東京を拠点にビジネスプランナーとして活動。異文化理解とデザインを連携させたローカリゼーションマップ主宰。特に、2017年より「意味のイノベーション」のエヴァンゲリスト的活動を行い、ローカリゼーションと「意味のイノベーション」の結合を図っている。書籍に『イタリアで福島は』『世界の中小・ベンチャー企業は何を考えているのか?』『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』。共著に『デザインの次に来るもの』『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか?世界で売れる商品の異文化対応力』。監修にロベルト・ベルガンティ『突破するデザイン』。
Twitter:@anzaih
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ローカリゼーションマップとは?
異文化市場を短期間で理解すると共に、コンテクストの構築にも貢献するアプローチ。

ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。

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