あくまで「ランチパック」というカテゴリーブランドをこんなときに食べて欲しいという訴求で一貫していることが逆にユニークなポジションを作っていると言えると思います。もちろんどんな新味を食べてもらっても、決して味の面でも裏切らないという自信が裏付けとも言えますが。
一貫性を徹底しつつキャラクターで温もり要素を演出
そして私が一番山崎製パンらしさを感じるのがパッケージです。非常にシンプルな直線パターン基調のデザインが機能的でどんな味がきても必ずランチパック一族と判別させてくれます。一貫性は強いブランドの絶対条件です。でもそれだけにとどまってしまうと、非常にクールで無味乾燥な印象にさえなりかねず、食品としては致命的です。そこが山崎製パンの本当に上手なところ。女の子のランチちゃん、男の子のパックくんという、ちょっと身も蓋もないような名前のキャラクターがパッケージで活躍していて、ハードな印象になり過ぎないよう、「ほっこり感」を与えているのです。本連載では度々指摘するようにクールすぎる食品パッケージはまったく売れません。
どうしてもプロのデザイナーは、最先端の感性をもったプロ、業界内での目線を意識しますので、よりエッジのとがったもの、よりシャープなものを目指しがちです。でもその意識はともすると買って食べる人を置き去りにする場合があり、生活者はそのエゴのにおいを敏感に感じとります。やはり食品のパッケージは、何らかの気取らない温もりがあるほうが人を安心させてくれるのではないでしょうか。
「ランチパック」に限らず山崎製パンの、食品としての温かみを常に感じさせる広告マーケティングはいつも見事と感じますし、それを広告代理店やデザイナーなどプロをきちんとコントロールして一貫させる努力は、明快で強い意志と自社ブランドに対する意識がなければできないことだと思っています。パンを中心とする身近な食品を扱いながらグループで年間売上1兆円を超える企業の凄みを、そのやわらかなパッケージから感じるのです。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら