【2】についてだが、定例会議や、かつて私がやっていた雑誌業界の「入稿」のタイミングなどがそれにあたる。「入稿」のタイミングになると、校正や校閲の担当者やデザイナーがやってきて、同じ執務室で長時間の仕事をすることとなる。彼らは外部からやってくるのだが、「入稿」作業を行う2~3日、彼を受け入れる編集部は「またAさんが来るよ…」となってしまう。
実は、Aさんのニオイについては、何カ月も誰も口にできないことが多い。複数人来た場合、誰がニオイの元なのかが分からないこともあるし、もしかしたら自分の鼻だけがおかしいのかもしれないと考えるからだ。Aさんだと目星をつけたとしても、Aさんの隣でいつも作業をしているBさんは平然としているため、Aさんだと特定するのは憚られる。そして、ある時、同僚と酒を飲んでいる時など、こんな会話になる。
自分:あぁ…。明日からまた入稿作業ですね。いやぁ~、ちょっとお二人に伺いたいことがあるのですが…。非常に言いにくいことなんですが…。
同僚X:もしかしたらオレも同じことを考えているかもしれない。
同僚Y:多分、私もそうかもしれません。
自分:いや、Aさんのニオイの件なのですが…。
X&Y:そう! それ!(と声を合わせる)
X:いやぁ~、そう思っていたの、オレだけじゃなかったか!
自分:安心しました、私、自分の鼻がおかしいのかと思っていましたが、XさんもYさんも同じことを考えていたんですね!
Y:私もこれまで言い出せなくて…。
X:Aさん、あれ、どう考えても風呂に入っていないうえに、あのジーンズ、この何年も洗っていないですよね…。
自分:あの色、完全にそうですよ! 何年モノなのでしょうか。
Y:いや、すごいビンテージものなのかもしれないので、指摘もできず…。
全員:はぁ…(とため息をつく)。
こうなった場合、Aさんがいかに臭いかが酒の肴となっていくのだが、「どうすればいいんだろうね…」と最後はなってしまい、互いの思いが同じだったことが確認できただけで、そこからの3日はAさんのニオイを皆で共有することになる。