元受付嬢CEOの視線

なぜオフィスは移転すべきなのか 増床で済ませないほうがいい理由

橋本真里子
橋本真里子

 2つ目の理由は、「成長の実感」のためです。

 これは先輩起業家の方から実際にお聞きした話です。先輩の会社は移転ではなく増床を繰り返しているそうで、今はオフィスの移転を真剣に考えているそうです。私が「もう増床が難しいんですか?」とお聞きするとこんな答えが返ってきました。

 「増床はあくまで増床で、移転とは違う。社員は増床では成長を実感することが難しい。やはり『移転』というイベントで自分たちの成長を感じ、日頃の痛みを癒したり、成長を実感するんだよ」

 「…だからね、移転は絶対にした方がいいよ」ともおっしゃっていました。私も起業して、移転を2回経験していますが、このお話には非常に共感しました。移転の準備は大変ですが、社員のみんながとてもワクワクしながら移転の日を心待ちにしてくれている様子や、新しいオフィスにちょっと緊張しながら業務につく様子。そして移転の際に負荷がかかるバックオフィス(総務)の人々の仕事ぶりを感じることができ、新たな感謝が生まれたりします。こういったことは増床ではなく、やはり移転だからこそ感じられる事柄だと思います。

 オフィスは戦略? この空間は誰のためのものか

 大手企業の中には「優秀な人材を確保するため高層ビルの上層階にオフィスを構える」「話題性のあるビルへの移転が決まると、プレスリリースを打ち、注目を集める」といった施策を行うところもあるといいます。

 弊社の規模ではもちろんまだそんなことはできません。だからこそ、そうした人材獲得や宣伝効果を狙ったオフィス戦略にどれほどの効果や意味があるかは解りかねる部分があります。

 私が受付嬢だった時に〇〇ビルに入っているから受付として入社したかったかといわれたら、そうではありませんでした。それよりも業界や規模、会社の文化を重視していました。とはいえ、これまで私が働いてきた企業は、有人の受付を設置できるほど規模の大きな企業です。そもそも立地や建物の水準が高かったせいか、オフィスの条件が自分の選考基準には意識的に入ってなかったのかもしれません。

 しかし、いま私が経営者になってからはっきり言えることがあります。「このビルに入っているから入社したい」と思ってくれる人と「この会社のプロダクトが好きだから入社したい」と思ってくれる人。どちらが会社にとって本当に採用すべき人材かというと後者です。私たちのようなスタートアップだとなおさらです。

 ですので、私が今回の移転で何よりも大切にしたことは「うちの会社とサービスが好きで頑張ってくれている社員が、快適に働ける環境を作りたい。みんなの力が発揮できるオフィスにしたい。何か一つでも自慢したくなるようなものがあるオフィスにしたい」ということです。全部に共通するのは、「今一緒に頑張ってくれているみんなのため」であることです。

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