ブランドウォッチング

ラグビー日本代表にスーツ提供「洋服の青山」 冬の時代にジャッカルできるか

秋月涼佑
秋月涼佑

 情緒価値の訴求に貢献

 ブランディング視点で公式スーツ提供の取り組みを評価すれば、従来、「コストパフォーマンスが良い」とか「機能的で品質が良い」、「ワンストップでビジネスに必要なウエアやアクセサリーがそろう」という「機能価値(Functional benefit)」に比べてちょっと訴求が弱かったように感じる、「カッコ良い」とか「自慢できる」「気分が良い」という「情緒価値(Emotional benefit)」の訴求強化の面で非常に有効なように思います。

 さらにブランディングを強化するのであれば、広く知られた漢字の力強い書体のブランドロゴは更新の時期かもしれません。もちろん長年支持されてきたブランディングですし、信頼や愛着は長年の顧客を中心に存在することは間違いありませんが、その分新鮮さや先進性は伝わりにくくなります。いわゆる陳腐化を感じる生活者も少なくないように思います。店頭では従来の漢字書体のロゴと新しくデザインされた山形のシンプルなアイコンに英文字のAOYAMAというスッキリとした印象の新しいロゴが併用されていますが、新旧混在しておりちょっと中途半端な感じは否めません。何分809店舗(同社ホームページ)とお店の数も多く、すべての看板や什器を新しいものにしようとすれば巨額の投資になりますから、刻刻と変化する市場の中でブランディングだけ刷新すれば良いのかという判断も含めて迷っている状況が店頭からも伺われます。

 今回のラグビー日本代表の公式スーツで気づかされたことは、やはりスーツはカッコ良い。まだまだスーツには魅力があるという事実です。特にビジネスシーンと相性が良いストイックさや信頼感を表現するのに適した装いであることは間違いありません。しかしながらビジネス着カジュアル化の市場環境がスーツにとって圧倒的な逆風であることもまた事実。歴史的に日本人の仕事着のスタンダードを提案してきた「洋服の青山」がそんな中再びスーツの良さを世に問い生活者の意識を引き戻せるのか、業態変更を含めて大きな方向転換をせざるを得ないのか、その難しい決断が下されるときこそが新しいブランディングが必要とされるときに違いありません。

秋月涼佑(あきづき・りょうすけ)
秋月涼佑(あきづき・りょうすけ) ブランドプロデューサー
大手広告代理店で様々なクライアントを担当。商品開発(コンセプト、パッケージデザイン、ネーミング等の開発)に多く関わる。現在、独立してブランドプロデューサーとして活躍中。ライフスタイルからマーケティング、ビジネス、政治経済まで硬軟幅の広い執筆活動にも注力中。
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【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら

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