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米国産シェールガス輸入解禁 日本に朗報、LNG安価調達の武器に
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米エネルギー省が、新型天然ガス「シェールガス」の増産で価格が下がっている液化天然ガス(LNG)の対日輸出を解禁することを決めた。第1弾は、中部電力と大阪ガスが参画するフリーポート(テキサス州)のプロジェクト。2017年から始まる見通しで、火力発電用のエネルギー調達コストの上昇に苦しむ日本に朗報となりそうだ。
米国はLNGの輸出を原則的に自由貿易協定(FTA)締結国に限っているが、シェールガスの開発ブームで輸出拡大を求める声が高まり、政府が是非を検討していた。
エネルギー省は、フリーポートに対し、1日当たり最大14億立方フィート(約4000万立方メートル)のLNGを20年間輸出することを認めた。中部電と大阪ガスは合計で、日本の年間LNG輸入量の約5%に相当する年440万トンのLNGを輸入する計画。
両社は「事業開始に向けて前進した」との歓迎コメントを発表した。同省は他の対日輸出計画も審査しており、「個別に判断する」としている。
米国がシェールガスを含む安価なLNGの輸出拡大に踏み切ったのは、「シェール革命」によるエネルギー大国の立場を生かし、日本など同盟国との関係強化とアジア重視を印象づける戦略的な判断がある。
08年ごろまでエネルギーの供給懸念が強かった米国だが、シェールガスの開発ブームで09年にロシアから天然ガス最大産出国の座を奪った。20年前後には純輸出国となる見通しで、エネルギーは米国の重要な外交カードとなった。
イランの核問題をめぐり、同国産原油の輸入削減を日本に要請している米オバマ大統領は2月、安倍晋三首相からLNG輸出を要請された際、「重要性は念頭に置いている」と強調。解禁に前向きとみられていた。
だが、米国内では事情が違った。当初は輸出拡大による天然ガス価格上昇の懸念が強く、化学大手ダウ・ケミカルなどの強硬な反対もあった。
想定より審査は長引いたが、エネルギー省は昨年、「米経済にとって利益の方が大きい」との報告書を発表し、流れが変わる。今回の対日輸出解禁も同省は輸出量を制限することで「公益に反しない」との立場を示した。ダウ・ケミカルも「生産者と消費者に恩恵を与える」と歓迎を表明した。
米国産LNGの日本への輸出解禁は、ロシアや中東を含むエネルギー資源の勢力図にも影響を与えることは間違いない。
米国のシェールガス増産で、中東産LNGが欧州に流入。売り先を失ったロシアは、世界最大のLNG輸入国である日本に販売攻勢をかけている。
円安による輸入価格急騰で、安価なガス調達が課題だった日本にとっては、米国産LNGというカードを握った形だ。これを武器にロシアや中東との長期LNG契約で有利な条件を引き出せる可能性もある。
ただ、米国内には「内需優先で輸出は限定的」との見方が一般的。エネルギー省は「今回が前例にならない」と強調したほか、民主党のエネルギー政策の重鎮であるワイデン上院エネルギー天然資源委員会委員長も、「米消費者が害されないよう政府が万全を期すものと期待している」と表明するなど、急速な輸出拡大を牽制(けんせい)する声は根強い。
日本が価格交渉力を確保するには、アフリカのモザンビークのプロジェクトなど新たな調達先の確保が一段と重要になってくる。(ワシントン 柿内公輔、上原すみこ)