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“言論の自由への狭量さ”身をもって示す機会 ~産経新聞前ソウル支局長手記

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“言論の自由への狭量さ”身をもって示す機会 ~産経新聞前ソウル支局長手記

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産経新聞ソウル支局内で仕事をする加藤達也前ソウル支局長=2014年10月5日、韓国・首都ソウル(桐山弘太撮影)  ≪政府、韓国に遺憾の意 菅氏「あるまじき行為」≫

 産経新聞社の加藤達也前ソウル支局長(48)が書いた朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領に関するコラムをめぐり、ソウル中央地検が情報通信網法における名誉毀損(きそん)で在宅起訴したことに対し、日本政府は9日、韓国側に遺憾と憂慮の意を伝えた。海外からも報道の自由の侵害に対する懸念が相次いだ。

 外務省の伊原純一アジア大洋州局長は9日、韓国の金元辰(キム・ウォンジン)駐日公使を外務省に呼び、「報道の自由、日韓関係の観点から極めて遺憾であり、事態を深く憂慮している」と伝えた。伊原氏は、加藤前支局長の件に関して日本政府が韓国政府に繰り返し懸念を伝え、慎重な対応を求めてきたことも指摘した。

 金氏は「本国に正確に伝達する」と述べる一方、「韓国の検察当局が法と原則に基づき捜査を進めた上で取られた措置であり、日韓の2国間関係全体とは無関係だ」と説明した。

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は記者会見で「民主国家としてあるまじき行為だ」と述べ、韓国側の対応を改めて批判した。ただ、伊原氏が金氏に「抗議」という文言を用いず、起訴の取り下げも求めなかったことに関して、「内政干渉になる部分についてはやはり控えるのが常識ではないか」と述べた。

 一方、米国務省のサキ報道官は8日の記者会見で、「検察の捜査に当初から関心を持ってきた。米政府は言論の自由、表現の自由を支持し、韓国の法律に懸念を示してきた」と述べた。

 国連のステファン・ドゥジャリク事務総長報道官も8日の記者会見で、「われわれ(国連)は普遍的な人権を擁護するため、報道の自由を尊重する側に立っている」と強調した。

 産経新聞社は9日、「日本はじめ民主主義国家各国が憲法で保障している言論の自由に対する重大かつ明白な侵害だ」とした熊坂隆光社長の声明を、韓国の柳興洙(ユ・フンス)駐日大使宛てに郵送し、速やかな処分の撤回を求めた。

 ≪言論自由への狭量 身をもって示す≫

 【前支局長手記】

 9日のソウルはさわやかな秋晴れとなった。私の今の心のようだと思った。不思議に思われるかもしれないが、8月初めに私が書いた「追跡~ソウル発」が韓国の朴槿恵政権から問題視され、今月8日に在宅起訴されるまで、ずっと同じ気持ちで過ごしてきた。朴政権の最大の問題である“言論の自由への狭量さ”を身をもって示すことができる機会と考えてきたからだ。

 「有罪判決」が目的

 8日夕、韓国のソウル中央地検は私を在宅起訴した。刑事処分決定に際しては事前に弁護士に通告するとしていたにもかかわらず、午後7時に韓国メディアに発表した。奇襲的な発表は韓国検察が一貫してとってきた態度の総仕上げだったといえる。これまで2カ月以上にわたる出国禁止措置と、3度の取り調べを受けた。私に揺さぶりをかけ、心理的に圧迫し、産経新聞を屈服させる意図があったのは明らかだった。

 検察は刑事処分について「(起訴の方針などの)予断はない」と、たびたび宣言してきたが、取り調べは明確に「起訴」を前提とし「有罪判決」を目的としていた。検事は、私が記事で用いた「混迷」「不穏」「レームダック化」などの言葉を取り上げ、その使い方から誹謗(ひぼう)の意図を導きだそうと必死だった。

 たとえば、「被疑者の記事にある『レームダック』は政権交代期に、政治に一貫性がないことを意味する言葉だが、韓国の政治状況に対してふさわしいと思うか」の質問がそうだ。

 私が「日本では『レームダック』の言葉は広義で影響力が徐々に低下している状況も示す」と応じると、検事は「政権初期の韓国の政治状況にそのような表現は無理ではないか」とし、「混迷、不穏、レームダック化の単語から、政権が揺れているのだと認識される。このような(単語を使った)記事を報道したのは、韓国政府や朴槿恵大統領を誹謗するためではないか」とたたみかけてきた。

 10月2日の3回目の取り調べで、検事は「(セウォル号事故当日の)大統領の所在問題が(韓国内で)タブー視されているのに、それを書いたことをどう考えるか」と聞いてきた。

 私はこの言葉に強い違和感を覚えた。日本では毎日、詳細に公開されている国家指導者の動静が“タブー”だというのだ。禁忌に触れた者は絶対に許さないという政権の意思を如実に示す発言だった。

 弾圧的姿勢いつまで

 韓国大統領府(青瓦台)で海外メディアを担当する報道官から抗議の電話を受けたのは、8月5日の夕方だった。

 報道官は機械的に抗議文を読み上げると刑事・民事での法的な対応を宣言。この直後、「市民団体」が私を告発、検察は待ち構えるかのように7日、出国禁止措置を出した。

 報道官は「確認もせずに掲載した」とも言い放ったが、そもそも青瓦台は7月、ソウル支局の名村隆寛編集委員が書いた次期駐日大使の内定人事を伝える記事に対して、「解禁指定日時を破った」として産経新聞社に1年間の出入り禁止(取材拒否)を通告していた。

 訴訟を乱発する朴政権に、韓国国内では既に萎縮、迎合しているかのような報道もみられる。朴政権はいったいいつまで、メディアへの弾圧的な姿勢を続けるのだろうか。(社会部編集委員 加藤達也/SANKEI EXPRESS

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