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アップル・ウオッチで“遺産頼み”脱却なるか 「既存品と大差なし」の評価も
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米アップルは9日、カリフォルニア州での記者会見で、腕時計型端末「アップル・ウオッチ」を発表した。2011年に最高経営責任者(CEO)に就任したティム・クック氏(53)のもとで初めてとなる本格的な新製品で、創業者のスティーブ・ジョブズ氏(1955~2011年)の死後、「クールさを失った」ともされるアップルの未来を占う試金石だ。満を持して発表したアップル・ウオッチに対しては、IT業界のアナリストから韓国サムスン電子などの競合製品を駆逐するとの見方も出ている。しかし価格の高さや電池の持続時間を不安視する声もあり、アップルの思惑通りに事が進むかどうかには不透明さも残っている。
「もう一つ発表することがある」。クックCEOは9日、カリフォルニア州クパチーノで開かれた発表会で、ジョブズ氏が好んで使った決まり文句でアップル・ウオッチを披露した。
クック氏はアップル・ウオッチは「腕時計型端末に対する期待を根底から変える」と宣言。ジョブズ時代に発表されたスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」などを引き合いに出しながら、アップル・ウオッチの革新性をアピールした。
アップル・ウオッチは丸みを帯びた四角いフェース(画面)を採用。基本モデルに加え、サイズの小さなモデルを用意したり、本体のデザイン別に3つのシリーズをそろえたりするなど、消費者が好みに合わせたデザインを選べる工夫を凝らしている。
またフェースの側面には竜頭のような形をしたダイヤル「デジタル・クラウン」を搭載し、ダイヤルを回すことで画像を拡大・縮小したり、スクロールさせたりすることが可能。こうしたデザインの優雅さや操作性の高さは、ジョブズ氏が常にこだわってきたところでもある。
アップルは今回の発表会の会場に、30年前にジョブズ氏がパソコン「マッキントッシュ」の初代モデルを発表したフリントセンターを選んだ。アップルがクックCEO体制下でもジョブズ氏の精神を引き継いでいることをアピールしようとしていることは明らかだ。
しかしクック氏はアップルを新たなステージに引き上げることも意識せねばならない。クック氏がCEOに就任してからも、アップルの売上高は世界市場への展開を背景にして拡大しているが、タブレット型端末は売り上げが頭打ちとなるほか、画面の大型化で後れをとったスマートフォンでは世界市場でのシェアが約12%まで低下している。
クック氏がアップル・ウオッチで狙うのは、ジョブズ氏の遺産頼みの経営からの脱却でもある。
腕時計型端末市場にすでに参入しているサムスンやLG電子、ソニーなどは市場開拓にもたついている。若者世代では腕時計をつける習慣が薄れていることや、製品のデザイン性の低さなどが原因とされる。アップルはこうした市場が抱える課題をアップル・ウオッチで打ち破りたい考えで、IT業界のアナリストからはアップル・ウオッチの成功を楽観視し、厳しい市場に苦戦している競合メーカーは「悪夢に突き落とされる」との声も出ている。
しかしアップル・ウオッチが打ち出した心拍数などをもとに運動量を測定するといった機能については「既存の腕時計型端末と大きな違いはみられない」といった辛口の評価もある。
本体を店頭の非接触型の読み取り機にかざすだけでクレジットカードによる支払いができる決済機能「アップル・ペイ」も、すでに他社が実現しているサービスで、しかも人気を獲得できていないのが現実だ。
また価格面での不安もある。アップル・ウオッチは349ドル(約3万7000円)からの価格設定で、他社の腕時計型端末よりも高い。「アイフォーン6の最も安価な機種よりも高い」と、割高感を指摘する声もある。また今回の発表では、電池の持ち時間に関する言及はなく、「毎日充電しなければならないようなら、顧客には受け入れられない」(腕時計メーカー)との分析も出ている。
携帯音楽プレーヤー、スマートフォン、タブレット型端末などで革新的な製品を発表して市場を切り開いたアップルの魅力がジョブズ氏の死後も維持できているかどうかは消費者の判断に委ねられているといえそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)