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【まぜこぜエクスプレス】Vol.23 「求められる」ことがうれしい 自閉症のラッパー、GOMESSさん

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.23 「求められる」ことがうれしい 自閉症のラッパー、GOMESSさん

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ラッパーとしてステージに立つと、スイッチがオンになるのだというGOMESSさん(右)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長、東ちづる。Low_High_Who?_Productionにて=2014年8月13日(山下元気さん撮影)  日本でも広く知られるようになってきた「自閉スペクトラム症(ASD)」。多数派とは違う認知のメカニズムや特殊な感覚を持つため、コミュニケーションなどにハンディキャップが現れやすいといわれている。7月にデビューしたラッパー、GOMESSさんは、自閉症であることをカミングアウトして活動している。いったいどんな人なんだろう。話が聞きたくて、彼の所属する「Low High Who? Production」を訪ねた。

 他の子とは違う自分

 「GOMESS(ゴメス)」というミュージシャンとしてのネーム。まるで怪獣のようだと思っていたら、本当に怪獣の名前が由来だった。彼の父親いわく「長男だから、(怪獣番組の)『ウルトラQ』の第1話に登場する怪獣の名前をつけたかった」。周囲の猛反対から断念。本名は森翔平。だが父親やその周囲の人はずっと当たり前のように彼を「ゴメス」と呼んでいた。子供の頃から、2つの名前があったそうだ。

 「元ひきこもり」「自閉症ラッパー」というキャッチフレーズ、ユーチューブやプロモーションビデオに映し出される繊細な表情、「孤独の世界からいつも見てる」という楽曲「人間失格」の印象的な歌詞…。そのイメージからインタビューに不安を感じていたが、現れた彼は人懐っこい笑顔で迎え入れてくれ、次から次へ言葉を紡ぎ出す、魅力的な人だった。

 自閉症とわかったのは10歳のとき。授業さえ出ていればテストはほとんど100点。はしゃぎ声が嫌いで、みんなと遊ぶことがおもしろくない。こだわりが強い。自分をコントロールできなくなる時がある。なんとなく他の子とは違う…。そんな自分に気づいてはいた。

 小5のある日、暴れたことをきっかけに学校に行かなくなった。「理由は覚えていない。机や椅子が倒れ、飼ってた金魚も散らばり、気づいたら床に寝転がって、馬乗りの先生に取り押さえられていた。遠巻きに眺める子供たち。学校へのイメージが、そのシーンで埋め尽くされてしまった」と、彼は淡々と話す。

 それから中学の卒業まで、自宅にひきこもる日々。「ブックオフ、TSUTAYA、病院以外に、ほとんど外出しなかった」。やがて、ソニーミュージック所属歌手の音楽を聴きまくるようになり、ヒップホップグループ「RHYTHMSTER」のファンになり、ヒップホップが好きになった。

 音楽をインプットする側からアウトプットする側になったのは、中2の頃。これまでに作った曲はすでに100曲を超えるという。

 スイッチがオンになる

 「死に急ぎはしないけど、生きていたくなかった。17歳くらいで家出をして、ふがいなさを感じながら餓死するのが理想だった」という彼。けれども、親に勧められて高校を受験。高1の文化祭ではじめて人前でラップを披露し、手応えを感じる。

 「ラッパーとしてステージに立つと、スイッチがオンになり、言葉があふれてくる。オフの時の方がいろいろ考えてしまいしんどい」

 かなりの生きづらさも味わってきたはずだ。ラップは、面と向かって言葉を交わさなくても表現できる、伝えられるツールなのかもしれない。

 「ニンゲンという集団は苦手だけど、人が好き」という彼。「とにかく、今は音楽をつくるのが楽しい。人から求められるってすごくうれしい」と話す。「自閉症の子の親御さんや、本人から『希望です』ってメールが来たり、自分を成功例のように扱ってくれるので、失敗できないなって思う」。そんな彼の才能を開花させるのが、「Low High Who? Production」を主宰し、ヒップホップ歌手「Paranel」としても活動するアーティストの鈴木充さんだ。

 実は日本のラップというジャンルが、ちょっと気恥ずかしかった。なのに、GOMESSさんのラップには違和感がない。聴けば聴くほどいい。なので、「これ聴いてみて」と勧めている。先日、音楽関係者に「いいね。彼はきますね」と言われ、親戚のおばさんのようにうれしかった。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS

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