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米とイラン、イスラム国幹部抹消で共闘も

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米とイラン、イスラム国幹部抹消で共闘も

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シリア・ホムス  【佐藤優の地球を斬る】

 イスラーム教スンニー派過激組織「イスラーム国」(IS)が8月19日、米国人ジャーナリスト1人を処刑し、もう1人を拘束しているとする情報をインターネット上で公開した。

 <イスラム国の映像は「米国へのメッセージ」と題し、2012年11月にシリアで消息を絶ったジェームズ・フォーリー氏とされる人物が、斬首される様子が写っている。

 映像がいつ撮影されたものかは不明だ。オバマ大統領がイラクでのイスラム国に対する限定的な空爆を承認した際にホワイトハウスで行った記者会見のもようが映し出され、続いてフォーリー氏とされる人物の脇に、黒覆面の戦闘員が立っている映像に変わる。

 フォーリー氏とみられる男性はカメラに向かい、「イスラム国に対する米軍の空爆は、私のひつぎを強く打ち付ける最後のクギであり、死亡証明書への署名だ」とコメントした後、首を切られた。コメントは戦闘員に強要されたものとみられる。

 また、13年8月にシリア内戦取材中に行方不明になった、スティーブン・ソルトフ氏とみられる人物が拘束されている映像も公開された。この人物の横で、戦闘員が「オバマよ、米国市民の命は、お前の次の決定次第だ」と脅し、イラクでの空爆など軍事介入を中止するよう要求している。

 これを受け、米国家安全保障会議(NSC)のヘイデン報道官は20日、「米情報機関が映像を分析した結果、本物だと判断した。無実の米国人ジャーナリストに対する野蛮な殺人行為だ」と非難する声明を発表した>(8月20日のMSN産経ニュース)

 米国のオバマ大統領は20日、フォーリー氏の殺害を受けて、声明を発表した。

 <イスラム国を「がん」にたとえ、国際社会に「この『がん』が広がらないよう、除去するための共通の取り組みが必要だ」と求める声明を発表した。

 イスラム国がスンニ派を含むイスラム教徒を殺害していることを挙げ、「彼らの思想は破綻している」と指摘。「21世紀にイスラム国のような組織に居場所はない」と述べた>(8月21日のMSN産経ニュース)

 ISは、2つのシナリオをよく計算した上で米国を挑発している。

 第1は、オバマ政権が本格的な武力介入によるIS掃討作戦に踏み切ることを躊躇(ちゅうちょ)するシナリオだ。この場合、「米国はISを恐れ、手出しができない。中東から米国の影響を駆逐して、神権政治を構築する機会が到来した」と策動を一層強化する。

 第2は、米国が地上戦を含む本格的な軍事介入に踏み切るシナリオだ。その場合は、「米国によるイスラームの館への侵略を阻止する聖戦(ジハード)を貫徹せよ。この聖戦における殉教者(シャヒード)は、天国にいくことができる」と、世界的規模でのゲリラ戦とテロ活動を煽動(せんどう)する。特に、懸念されるのが、パレスチナのスンニー派過激組織ハマスだ。

 ハマスは、イスラエルのみならずヨルダン王室に対する攻撃を強め、地域情勢の不安定化を試みる。ISやハマスなどのスンニー派過激組織は、ヨルダンの王制を打倒することで、アラビア半島から北アフリカにイスラーム原理主義国家を樹立することを考えている。

 このような状況では、インテリジェンス機関を用いた秘密工作が重要になる。テロに従事するIS過激派の要になる人物を、秘密裏に抹消する秘密工作だ。米国はこのような秘密工作を既に始めている。ここで重要なのは、ISに脅威を覚えているシーア派(12イマーム派)原理主義国家イランの動きだ。イランもIS幹部を抹消する秘密工作を展開していると筆者は見ている。「敵の敵は味方」という理屈で、IS掃討作戦で米国とイランが協力体制を構築する可能性も排除されないと思う。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優(まさる)/SANKEI EXPRESS

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