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障害者の社会参加に貢献 フィリピンで巣立つ「義肢装具士」

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障害者の社会参加に貢献 フィリピンで巣立つ「義肢装具士」

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フィリピン義肢装具士養成学校の卒業式であいさつをするライッサ・ローレルさん=2014年4月23日、フィリピン・首都マニラ(日本財団撮影)  【ソーシャル・イノベーションの現場から】

 「たとえ身体に障害があったとしても、適切な福祉機器があれば、何も不可能はありません。私にとっての福祉機器は義足でした。私は義足のおかげで、走ったり、トレーニングをしたり、ボクシングをしたりといった生活を、取り戻しました」

 マニラにある「フィリピン義肢装具士養成学校」の卒業式に来賓として招かれ、挨拶でこう力強く語ったのは、2010年に事故で両足を失った女性、ライッサ・ローレルさん(27)。

 義肢装具士は、手や足を失った人や運動が不自由な人のために、義手・義足やコルセットといった装具と呼ばれる福祉機器の製作・装着を行う専門家である。養成学校は、義肢装具士を育成するフィリピン初の専門機関として2010年に開校した。

 今年4月に開校後、初めての卒業式が行われ、8人のフィリピン人義肢装具士が誕生した。義足でロースクールに通うライッサさんは、来年10月に控える司法試験の準備に追われる中、卒業式に駆けつけ、これから障害者らの生活を助けるために巣立つ新米たちを激励した。

 前向きな姿が与えた影響

 ライッサさんと養成学校を結びつけたのは、2010年9月の悲しい事件である。当時ロースクール2年生だったライッサさんは、マニラのタフト通りで司法試験を受け終えた友人を迎えるため、最高裁判所の建物の前で待っていた。その時、突然何者かが投げつけた手榴(しゅりゅう)弾が爆発し、44人が重軽傷を負った。翌日、病院で目を覚ましたライッサさんは、両足を失ったことを知る。

 アジア地域における障害者の社会参加を促進するため、1991年から義肢装具士の養成に取り組んできた日本財団はカンボジア、タイ、スリランカ、インドネシアに続き、フィリピンでの養成学校の開校準備を進めていた。その折、ライッサさんが両足を失った事件を知り、日本財団の笹川陽平会長が、見舞いにマニラの病院を訪問。その際に義足のプレゼントを約束した。

 敬虔(けいけん)なクリスチャンであるライッサさんは事件後、「犯人を許したい。一命を取りとめた私には、人生の中で果たすべき役割がある」と語った。痛ましい事件に遭遇しながらも前向きな姿勢を失わなかったライッサさんのことはフィリピンで大きく報じられた。そのおかげで、あまり世間の注目を集めることがない義足の役割にスポットライトが当たり、義肢装具士の社会に対する貢献の大きさを広く知ってもらう機会になった。

 それから3年半。リハビリを続けたライッサさんは歩けるようになり、走れるようになり、ボクシングもできるようになった。その間、同じ大学に通っていた男性と結婚式も挙げた。そして、養成学校の第1期生として学んだ学生らも卒業式を迎え、ライッサさんの祝福と激励を受けた。

 個人ではなく、社会の問題

 ライッサさんが社会復帰のため努力する姿は、「障害は、障害者個人の問題ではなく、彼らを取り巻く社会の問題である」ということを教えてくれた。肢体障害者を支える適切な義肢装具を提供できる仕組み作りは、彼らの社会参加を実現するための第一歩だ。

 世界保健機関の推定によると、途上国では人口全体の0.5%に相当する人たちが義肢装具の提供を必要としているが、義肢装具士やリハビリテーションに関わる専門家は圧倒的に不足しているという。義肢装具士の育成には時間を要するが、養成学校の卒業生たちが活躍することで、肢体障害者の社会参加は確実に進む。

 ライッサさんは、卒業式での挨拶をこう締めくくった。

 「福祉機器が、それを必要とする全ての人に行き渡れば、彼らは自信を取り戻せる。ただ生き長らえるのではなく、人生を諦めない。こうした世界を実現しましょう」(日本財団 国際協力グループ 立石大二SANKEI EXPRESS

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