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黒人青年の悲劇を訴えたかった 映画「フルートベール駅で」 ライアン・クーグラー監督インタビュー

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黒人青年の悲劇を訴えたかった 映画「フルートベール駅で」 ライアン・クーグラー監督インタビュー

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 2013年のサンダンス映画祭で作品賞と観客賞を手にしたライアン・クーグラー監督(27)の長編第1作「フルートベール駅で」は、鉄道駅で白人の鉄道警察官に撃たれて死亡した乗客の黒人青年、オスカー・グラントの人生最後の日を描いたヒューマンドラマだ。遺族、地元関係者、当該の鉄道会社への取材を重ね、映画化にこぎつけたクーグラー監督は「この映画は事件の真相に迫ったり、人種差別をことさらに批判するものではなく、3歳の娘を残したまま、心ならずも亡くなった一人の青年の悲劇を世界の人々に訴えたかったんです」と製作の意図を語った。

 威圧的な白人警察官

 09年の元日、新年を迎え歓喜に沸く人々でごった返す米サンフランシスコ近郊のフルートベール駅。友人たちと遊びに出かけた22歳の黒人青年、オスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)は、車内で白人グループからけんかをふっかけられ、駅を巡回していた白人の鉄道警察官2人が駆けつけた。2人はオスカー側を“悪者”と一方的に決めつけた挙げ句、警察官の1人がプラットホームで丸腰のオスカーの腹部を銃撃し、搬送先の病院で死亡させてしまう。

 にわかには信じがたい事件だが、実際に起きた出来事だ。鉄道警察官たちの狼藉(ろうぜき)ぶりに堪忍袋の緒が切れた市民たちは全米で抗議集会を開き、事件は波紋を呼んだ。現在も駅の周辺地域に住んでいるクーグラー監督は「鉄道警察官が故意にオスカーを撃ったのかについて個人的な見解を持っていないが、嫌でも関心を持たざるを得ない話」といい、映画化に動いた。

 それにしても本作が描くように、米国の白人警察官はこれほどまでに黒人住民に対して威圧的なものなのか? クーグラー監督は「もちろん警察官によって威圧のレベルが違いますが、彼らの行動基準は軍隊と変わりませんよ」と即答した。オスカーたちが黒人だから鉄道警察官から理不尽な扱いを受けたかどうかについては「僕は白人ではないから分かりません。ただ、映画で描いた状況が目の前で展開されれば、白人警察官の取る態度は映画と同様になるケースが多いと思います」と指摘した。

 無念を観客に体験

 なぜドキュメンタリーの手法で描かなかったのかも気になるところだ。「ドキュメンタリーでは、オスカーと一緒に多くの時間を過ごせないと思いました。実際、彼の写真も多くは残っていなかったし、彼が映ったビデオも自宅周辺で撮影されたものだけしかありませんでした。

 映画のマジック、つまり役者の演技を通して、オスカーの無念を観客に体験してもらいたかったんです」。クーグラー監督は力を込めた。

 映画製作に加えて、サンフランシスコの少年鑑別所でカウンセラーを務めているクーグラー監督。「人種差別だけにとどまらず、最近では同性愛の是非についても社会をにぎわせています。人をありのままに受け入れることがこんなにも難しいものなのか。映画を撮り終えた今、そんな思いを強めています」。3月21日、全国公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Ryan Coogler 1986年5月23日、米カリフォルニア州生まれ。南カリフォルニア大で映画とテレビ製作の修士号を取得。2011年、娘の安全のために闘う若い娼婦を追った短編の学生映画「FIG」(未公開)がディレクターズ・ギルド・オブ・アメリカの学生映像作家賞などに輝く。本作はカンヌ国際映画祭「ある視点部門」のフューチャーアワードを受賞。

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