ニュースカテゴリ:EX CONTENTSエンタメ
父と息子の「ラブストーリー」 映画「大統領の執事の涙」 リー・ダニエルズ監督インタビュー
更新
「撮影現場ではみんながリラックスできるようによくパジャマを着てディレクションをするんだ」と語るリー・ダニエルズ監督=2014年2月6日、東京都港区(寺河内美奈撮影) 7人の米大統領に仕えた実在の黒人執事、ユージーン・アレン(1919~2010年)の人生を縦軸に、父と息子は本当にわかり合えるものなのかを、リー・ダニエルズ監督(54)が問うた。脚本を手にしたとき、息子(養子)は13歳、まさに思春期を迎えたばかり。ダニエルズ監督は、ギクシャクし、けんかが絶えなかった自らの父子関係について明かしたうえで、「僕は、父として息子に対し、どう振る舞ったらいいのか分からないんだ。僕の父は13歳で亡くなったからね。この映画を作った一番の理由は、その答えを見つけようとしたことです。作品は父と息子の“ラブストーリー”なんです」と語った。
米南部の綿花畑で働く黒人青年、セシル(フォレスト・ウィテカー)は、自分をこき使い、父親をまるで虫けらのように殺害した白人雇い主に支配される日々に嫌気が差し、ひとりで生きていくため街へ出た。努力の末、ホテルのボーイとなったセシルはその腕を見込まれ、ドワイト・D・アイゼンハワー米大統領(1890~1969年)の執事に採用される。だが大学生の長男、ルイス(デビッド・オイェロウォ)はそんなセシルの生き方を白人への迎合と感じて反発し、反政府活動に身を投じる。
作品には、黒人が白人に抱く敵意にも温度差があることや、公民権を手にした黒人に対して白人が使い分ける本音と建前といった、複雑な心理が巧みに描写されている。表面上は白人にこびへつらいしたたかに生きていくタイプ、権利を勝ち取るためにあらゆる手段を使い権力と闘うタイプ、権力との闘いを放棄し、生きる気力も失ったまま漫然と生きるタイプ-。ダニエルズ監督は、作中にさまざまな人物像を散りばめた。
「セシルとルイスの関係は自分と父の関係に似ている」と語る監督は、険悪だった自らの親子関係を2人の姿に重ね合わせ、本来あるべきだった姿を想像しながら丁寧にカメラに収めていったそうだ。また、セシルについては、自身の祖父、叔父、今までに出会った奴隷出身の使用人の家族たちなど、これまでに何らかの関わりを持ったすべての黒人たちを合体して1人にしたキャラクターだと明かした。アレン本人に取材できなかった事情も大いに影響したのだろうが、「僕は自分が知っている人物や内容でなければ、物語をつづることができないタイプの映画監督だからね」。本作の冒頭、実在のアレンに少しだけ手を加えた旨の注釈が出るのはそんな理由からだ。
ラストにも描かれるが、正直に言えば、アフリカ系米国人のバラク・オバマ氏(52)が大統領に当選するなどとは夢にも思わなかった。「投票はしたけれど、僕が生きているうちに黒人大統領が実現するなんて、夢に思うことすら恐ろしくてできなかった」。だが、そんな自分とは対照的に、まだ幼かった息子たちは開票日の夜、「きっとオバマ氏が勝つに違いない」と、とてもわくわくしたらしい。ダニエルズ監督が「サッカーの試合のように、勝つときもあれば負けるときもある。黒人候補者に大きな期待を寄せてはだめだ」とたしなめると、子供たちは信じられないといった表情をみせ、思いがけない言葉を発した。「パパは何でそんなことを言うの? それは人種差別じゃないの?」。ダニエルズ監督は「僕らの世代との違いを嫌というほど思い知らされました。考え方がまるで違うんですよ」と吐露し、苦笑いを浮かべた。
実際に誕生したオバマ大統領を見て思うのは、「人種差別的な背景もあって、思うように手腕を発揮できないという部分ももちろんあるだろうね。でも、かつてのロナルド・レーガン大統領やジョージ・W・ブッシュ大統領のように、オバマ大統領が強硬的な態度をとったり、発言を繰り返せば、白人からは単なる(黒人を侮蔑する際に使われる)『アングリー・ブラックマン(Angry Black Man)』と片づけられてしまう。それも望ましくない」。黒人大統領がリーダーシップを発揮する際のさじ加減の難しさを自分のことのようにおもんぱかった。2月15日、全国公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:寺河内美奈/SANKEI EXPRESS (動画))
※映画紹介写真にアプリ