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規制論台頭 ビットコイン、日本普及の分岐点 高い利便性 犯罪の温床にも
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国際基督教大学客員教授の岩井克人氏=2014年1月24日、東京都港区(大橋純人撮影) インターネット上の新たな投資・決済手段として仮想通貨「ビットコイン」が日本でも使われ始めた。国境をまたいで瞬時に送金できる利便性や、政府に関与されない金融商品として世界中に広がった。一方、消費者保護や違法取引の防止などの課題から法規制を導入すべきだとの機運も高まっており、普及していくかどうかの分岐点を迎えている。
「1日1回はお客さまが支払いで使います」。音楽イベントなどでにぎわう東京・六本木のレストラン「ピンク・カウ」。横尾明香音オペレーションマネージャーは、ビットコインの広がりを実感する。昨年(2013年)7月に日本で初めてビットコインでの決済を導入した当初は1週間に1人いるかいないかだった。
決済の仕方は簡単だ。店員がタブレットに飲食代を入力するとQRコードで表示。客がスマートフォン(高機能携帯電話)の専用アプリで読み取れば店の口座に送金される。「クレジットカードのように手数料を支払う必要もない」とオーナーのトレイシー・コンソーリさんは利点を説明する。
世界の利用可能店を掲載したホームページ「コインマップ」によると、日本で利用できる飲食店や語学学校などは十数カ所だが、欧米では数百カ所あり、流通額は1兆円規模に達する。
脚光を浴びたのは昨年(2013年)3月のキプロスの預金封鎖。政府に把握されない資産の逃げ場として注目されて買いが進み、当時1BTC(通貨単位)=10ドル程度から200ドルまで上昇。これを機に世界で認知され、米連邦準備制度理事会(FRB)が「期待が持てる」との声明を出した後の11月下旬には1200ドルまで高騰した。しかし12月に利用が急拡大する中国で中央銀行が警告を出すと500ドルまで急落した。
ただ価格の乱高下はさほど問題ではない。取引の実態がつかみにくく麻薬取引やマネーロンダリング(資金洗浄)の温床になっているとの指摘もあり、1月末には米ニューヨーク連邦地検が闇サイトの利用者に提供したとして取引所の経営者らを訴追。先週末には東京を本拠とする取引所のマウントゴックスがシステム障害を理由にビットコインの引き出しを停止した。
「ネットで一度広がったものを当局の規制で止めるのは難しい。むしろ安全に使える枠組みを構築すべきだ」とブラウン・ブラザーズ・ハリマンの村田雅志通貨ストラテジストは話す。課題はあるが、国際送金などで利点が大きいのも事実だ。
規制について、米国は取扱業者に免許を与えて監督する検討に入った。一方、中国やロシア、インドネシアはビットコインでの決済を禁止するなど新興国勢は警戒姿勢を強める。
「ビットコインの性質が変わることになる」。国際基督教大学の岩井克人客員教授は、政府の管理を受けない反体制的な思想に基づき生まれたビットコインの本質を覆すと指摘する。しかしマイナー通貨が政府の手を借りて多くの人に使ってもらえる土壌が整備されるのは、メジャー通貨に転身する兆しにも見える。(万福博之/SANKEI EXPRESS (動画))
≪貨幣の一歩手前 つぶれる確率9割 岩井克人・国際基督教大学客員教授≫
──なぜ今、ビットコインが注目を集めているのか
「ビットコインは政府や中央銀行を介さず、インターネットで簡単にやり取りできる。政府や中央銀行といった権威を嫌う自由主義的思想のネット世界の人々に受け入れられている。電子記号をお金として使う場合、一度使った記号を二度と使えなくする処理が必要だが、ビットコインはきれいな形で処理しており、コンピューターを愛用している人たちの心をとらえた」
──ビットコインは貨幣か
「貨幣の一歩手前だ。大昔は貝殻や塩などが貨幣だったように、多くの人が『貨幣である』と信じることでモノが貨幣になる。ビットコインはそこまで広がっておらず、投機や資金洗浄目的で使われることが多い。投機によって値段が乱高下するビットコインは、買い物の際に使い勝手が悪い。クレジットカードやカード型IC乗車券に割り込むのも難しいだろう」
──今後普及するか
「9割くらいの確率でつぶれるだろう。投機目的で価値が高騰しているが、バブルはいつか崩壊するからだ。また中央銀行が制御できないと金融政策の効果が弱まる。このため政府や中央銀行がなんらかの形で規制に乗り出す可能性が高い」
──貨幣として流通しない
「短期的に流通する可能性が1割程度あるとみている。ただ貨幣として流通してもいずれ崩壊するだろう。貨幣とは他の人に渡す『予想』の上で成り立っているが、それ自体に価値はない。人々が価値がないと思ったらインフレを起こす。そこを最終的に支えているのが中央銀行だが、ビットコインにはそれがない。自由放任では、お金の価値は必ず崩壊する」(大柳聡庸/SANKEI EXPRESS (動画))