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「仮想通貨」騒動過熱、揺れる当局
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「慣れると現金に似た感覚で使えるね。海外送金でも手数料が取られない点もメリットだし、ネットユーザーに相性がいい“通貨”だと思う」
米IT企業に勤める男性(40)は、世界中で出回っている仮想通貨の代表格である「ビットコイン」の愛用者の一人だ。ネットを通じて知り合ったIT業界の関係者からその存在を知り、「すっかりとりこになった」。普段はネット通販で活用しているという。
インターネット上の決済などに用いられる「仮想通貨」をめぐる騒動が米国を中心に世界的な広がりをみせている。米当局が「合法」のお墨付きをひとまず与えたことから相場が急騰し、新たな仮想通貨も続々生まれている。一方で、投機性や犯罪の温床を懸念する声も根強く、論議は高まるばかりだ。
「世界の商取引を効率化する可能性がある。今後も進化し成長するだろう」
(2013年)11月18日の上院国土安全保障委員会。代表的な仮想通貨のビットコインに関する初の議会公聴会で、司法省幹部は法的に問題ないとの認識を示した。
偽造通貨を捜査する大統領警護隊(シークレットサービス)や財務省の担当者も同様だ。米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ議長(60)も「迅速な決済につながれば長期的に利点をもたらす可能性がある」との書簡を提出した。
ビットコインは通常、ネット上の「取引所」で手持ちのドルなどの現実通貨と交換するが、米国ではスーパーなど約70万カ所で現金を持ち込めば入手できる。ネ
ット通販のほか、最近は飲食店などでも使えるところが増えてきた。仮想通貨の種類は80を超えるとされ、毎月のように新たな仮想通貨が誕生している。ある業者は「カード社会の米国でも世帯の4分の1はクレジットカードを持たない」として、市場拡大に期待する。ネット通販業者にとっても、代金を実際に回収するまで時間がかかるカード決済と違い、現金決済に近い利点がある。
ビットコインが誕生した経緯は定かではない。日本人を連想させる「ナカモト・サトシ」を名乗る人物が2009年にネット上で発表した仮想通貨の論文を下敷きに賛同者が開発したとされるが、ナカモト氏の正体など詳細はベールに包まれている。
仮想通貨が人気なのは、送金手数料が不要でクレジットカードより決済コストが低いなどの点もあるが、交換レートの値動きが荒く投機性が強いためだ。ビットコインは2、3カ月前は1コイン=200ドル台だったが、米当局の容認発言で急騰し、(2013年)11月27日に初めて1000ドルの大台を突破した。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、複数の仮想通貨を運用し、「金持ちになる切符だ」と一獲千金を狙う投資家の声を紹介している。
ただ、仮想通貨はサイバー攻撃が懸念されるほか、匿名性を逆手にとってマネーロンダリング(資金洗浄)など犯罪に悪用されるケースも目立つ。米連邦捜査局(FBI)は(2013年)10月、ビットコインを違法薬物取引に利用していたサイトを摘発した。司法省も「仮想通貨は悪事をたくらむ者に魅力的で、当局に試練を与える」と警戒する。
米国のほかドイツもビットコインを「私的な通貨」として利用を認める一方、タイは(2013年)7月に取引を禁止するなど、合法性の判断も国によってまだ異なるのが現状だ。
(2013年)12月に入ってフランスと中国は中央銀行がいずれも、「価格が乱高下しやすい」として投資家に注意を喚起。欧州銀行監督局も、利用者保護の仕組みが未整備で利用する際は注意する必要があるとの声明を発表した。中国ではビットコインのリスク懸念から一時取引価格が急落するなど、相場は不安定な状態だ。
各国の中央銀行が管理する通貨と違い、信用保証の裏付けも乏しく、ニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁(61)は「現実通貨の代替物が必要だろうか。私は懐疑的だ」と眉をひそめる。メディアでも論議が活発で、米紙ニューヨーク・タイムズは「多くの人が仮想通貨を話題にするが、信用するかどうかは別問題だ」と指摘する。
日本を含め各国の当局は調査と分析を急いでおり、仮想通貨が普及するのに伴い監督の在り方をめぐる論議も高まりそうだ。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS)