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生誕シーン再現「ベレン」が彩るXmas スペイン・マドリード

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生誕シーン再現「ベレン」が彩るXmas スペイン・マドリード

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 【Viva!ヨーロッパ】

 聖母マリアに優しく抱かれた神の子イエス。隣にマリアの許嫁(いいなずけ)ヨセフが寄り添う-。スペインのクリスマスで欠かせないのが、キリスト生誕シーンを再現したミニチュア「ベレン」だ。カトリック教国らしい伝統の装飾は今も国民に愛され続け、年明けにクライマックスを迎えるクリスマスシーズンのイベントに彩りを加えている。

 市役所は観光スポット

 昨年(2013年)12月初旬、マドリード市役所前に100人近くの列ができていた。お目当ては庁舎内ホールに飾られた巨大ベレンだ。バロック時代の代表的彫刻家の作品が展示されるとあって、多くの人々が詰めかけたのだ。

 外周約30メートルに上るガラス張りの陳列ケースには、イエスの生誕のほか、「受胎告知」、イエスがヘロデ王による殺害から逃れるためエジプトに向かう姿など、聖書に由来する場面や庶民の生活の様子などが297体の人形で再現されていた。精巧な人形はどれも表情豊かだ。

 マドリード市は長年、所有するベレンをこの時期に飾ってきたが、2012年から別の会場に移し、市庁舎では著名な作品を紹介。12年は展示期間中に8万人が訪れた。市内にはこの他にいくつものベレンが展示され、散策マップもつくられている。

 「すばらしいね。この後もいくつかのスポットを回るよ」。地方から観光に訪れた男性は、そう笑顔を見せた。

 ベレンの起源は13世紀にさかのぼる。聖人「アッシジの聖フランシスコ」の助言を受け、イタリアの貴族が、その生誕を祝うため、イエスが馬小屋でどんなに貧しい環境で生まれたかを伝えようとつくったのが始まりとされる。その習慣が後にスペインにも普及した。「ベレン」はイエスが生まれた「ベツレヘム」のスペイン語だ。

 創意工夫の楽しみ

 旧市街のマヨール広場では11月中旬から1月上旬にかけてのこの季節、クリスマス用グッズの市場が開設される。その中でも目を引くのはベレン用の人形を扱う店の多さだ。イエスやマリアといった聖家族、誕生を祝うためにイエスを訪ねた「東方三賢人」など聖書の登場人物だけでなく、庶民や動物の大小さまざまな人形、水車や川、小屋などの模型が店頭を埋めていた。

 スペインではクリスマスの時期に家庭でもベレンを伝統的に飾る。市場はその材料を入手する場所だ。ある店主によると、国に登録された正規のベレン人形職人は限られており、マドリード市内で購入できるのはこの時期だけ。「それ以外に街中で売っているのをみたら、“模倣品”。気をつけてね」とも。

 家庭でつくるベレンは毎年組み立てるため、年ごとに異なる。最初はイエスら「聖家族」をそろえ、翌年以降、徐々に大きくしてもいける。創意工夫の楽しみがあることから、「鉄道模型も加えてマドリードの街並みのベレンを作ったこともある」(男性芸術家)との“強者”もいる。

 プレゼントは5日の夜

 カナリア諸島から訪れた家族は聖家族や三賢人、馬小屋などを大量に買い込んでいた。長男のペドロ・ナバーロ君(12)は「去年までは馬小屋の代わりに靴箱を置いたりしていた。今年が本格スタートで、僕がちゃんとつくる」と意気込んだ。

 マドリード南部のパソコン教師、グアダルーペ・サエスさん(36)一家のベレンは玄関の棚の上に飾られていた。「実家ではもっと大きかったんですけれどね」というが、7年前の結婚後につくりはじめたベレンは川も流れた立派なもの。こだわりも隠されている。

 サエスさん宅では三賢人が聖家族の反対端に置かれていた。スペインでクリスマスのメーンの日は、三賢人が貢ぎ物を持ってイエスを訪ねたのを祝う1月6日の「東方三賢人の日」。サエスさんはその日まで三賢人を毎日少しずつ聖家族に近づけていくのだ。「イエスを24日まで飾らない家庭もあるわ」

 スペインではクリスマスプレゼントを運んでくるのは、サンタクロースではなく、三賢人と信じられ、その日は12月24日ではなく、1月5日の夜。願い事をしても、“いたずらっ子”には「炭のかけら」が送られるのだという。

 「炭だったら困る?」。長女のアレハンドラちゃん(2)にたずねると、「私はギターをもらうもん!」。ドキドキする夜はもうすぐだ。(マドリード 宮下日出男、写真も/SANKEI EXPRESS

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