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対中牽制へ韓国との信頼関係築け

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対中牽制へ韓国との信頼関係築け

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 【佐藤優の地球を斬る】

 南スーダンは2011年7月に独立した新しい国家だ。この国家が成立した背景には、米国と中国の「グレート・ゲーム」がある。南スーダンには大量の石油が埋蔵されている。中国がこれに目をつけて、本格的な開発に着手しようとしていた。この石油開発が成功すると、アフリカにおける中国の政治的、経済的影響力が格段に高まる。それと同時に、オイルマネーがアルカーイダなどの国際テロ組織に流出する危険性がある。中国と国際テロ組織を封じ込めるために、米国のオバマ政権はかなり無理な手法を用いて南スーダンをスーダンから独立させた。

 南スーダンの独立と石油権益を擁護することは、米国の同盟国である日本と韓国の国益にもかなう。だから、日本も韓国も南スーダンにおける国連平和維持活動(PKO)に参加しているのだ。

 その南スーダンで、武装勢力の襲撃によって治安が悪化し、国連と韓国の要請を受け、PKOに参加している陸上自衛隊部隊が12月23日、銃弾1万発を現地の韓国軍に無償で提供した。

 <国連と韓国から「防護のための銃弾が不足している」との要請が22日にあった。これを受け、安倍晋三首相は23日、国家安全保障会議(NSC)の4大臣会合と9大臣会合を招集して対応を協議し、持ち回り閣議で提供を決定した。

 菅義偉(すが・よしひで)官房長官は23日夜、銃弾提供についての談話を発表した。提供は(1)隊員や避難民の生命・身体保護のため一刻を争う(2)現地で韓国軍と同型の銃弾は自衛隊しか保有していない-ことから「緊急事態」と判断し、武器輸出三原則などの例外と位置付けた。提供銃弾が避難民らの安全確保のみに使用されることなどを前提にしている>(12月23日MSN産経ニュース

 日本は、韓国と国連から頼まれ、善意でしかも無償で銃弾を提供したにもかかわらず、韓国の政府と世論は激しく反発している。

 <陸上自衛隊から韓国軍への銃弾1万発の無償提供が韓国側の要請によるものだと日本政府が公表したことに対し、韓国政府が日本政府に外交ルートを通じて「政治的に利用している」と強い遺憾の意を伝えたことが分かった。韓国紙の朝鮮日報が25日、報じた。

 記事では、韓国政府高官が「国連南スーダン派遣団(UNMISS)を通じ、迂回(うかい)して支援を受けたにも関わらず、日本側は軍事的な役割の拡大につなげようとしている」と不快感を示したとした。さらに、この遺憾表明を日本側への「警告」だと主張した>(12月25日MSN産経ニュース

 日本からすれば、韓国の遺憾表明は言いがかり以外の何ものでもない。しかし、韓国には日本がこの件を利用して、軍事的役割を拡大しているように、本当に見えるのだ。国際社会が急速に新・帝国主義的傾向を強めている。日本もその中で生き残りを図るために日本版NSCを創設した。NSCは、日本の安全保障にとって究極的な状況が生じたときに、力による問題解決を決断できる機関だ。NSCで銃弾供与が決定されたため、このようにして日本が武器供与を急速に拡大していくのではないかと、韓国は邪推しているのだ。

 こういう誤解を解消するために、日韓のハイレベルでの信頼関係をきちんと構築しなくてはならない。日本と韓国は、政治指導部が国民の選挙によって選ばれる民主主義国だ。共産党により政治権力が独占された中国とは基本的価値観を異にする。南スーダンにおける日韓の軍事的連携の強化は、対中牽制(けんせい)としても大きな意味をもつ。それが、政治的なミスコミュニケーションの欠如によって阻害されることは、日韓関係だけでなく、日米関係にも悪影響を与える。(作家、元外務省主任分析官 佐藤優/SANKEI EXPRESS

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