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【辛酸なめ子の映画妄想記】スターになれない、ならない幸せ

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【辛酸なめ子の映画妄想記】スターになれない、ならない幸せ

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【かざすンAR(視聴無料)】映画「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」(モーガン・ネビル監督)。公開中(ポイントセット提供)。(C)2013_Project_B.S._LLC  □映画「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」

 光があれば影があるのが芸能界の現実。日本のアイドル界でもセンターや選抜メンバー制度などスポットが当たる人と当たらない人の差ができてしまっています。先日もジャニーズのKis-My-Ft2から、「舞祭組(ぶさいく)」というユニットが派生、いつも後ろの方にいる4人のメンバーが、前面の3人への複雑な思いや、自分たちがいないと彼らは輝けないという自負を歌っていました。そこまで開き直れればまだ幸せかもしれません。先輩のバックで踊っていた後輩がデビューするチャンスもあります。アメリカはさらにスターの格差が顕著で「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」に出てくる、バックコーラスのベテラン歌手たちも、見えない壁の前に悩み、時には心が折れそうになりながらも、プロの仕事をこなしています。

 強いエゴがない

 「数歩の距離だけど難しい。バックコーラスからメーンの位置に来るにはね」と、冒頭で語るブルース・スプリングスティーン。

 「前で歌う心構えをきちんと持てる人ならセンターに立てる。でも多くの人がなじめない。強いエゴがないからだ」というスターの言葉には説得力があります。ダーレン・ラヴ、クラウディア・リニア、リサ・フィッシャー……画面には次々と無名のバックシンガーが登場します。彼女たちとスターの違いは何なのでしょう。運? ルックス? 才能? 素人目には、やはりオーラが薄いような印象です。ギラギラしていないというか、押しが弱いのかもしれません。ブルースのいう「強いエゴ」、人を蹴(け)落としてまでも成り上がる野心が欠けている感じです。

 バックシンガーの黒人女性たちの多くは子供時代、教会でゴスペルを歌い歌唱力を培ってきました。教会では自然と奉仕精神や謙虚さも身に付けたのでしょう。バ

ックシンガーには基本、競争心がなく、「歌える子がいるわ」と、別の人をプロデューサーに紹介することもよくあるそうです。映画の中でも「歌は絶品」などと惜しげなくほめ合っていて、生き馬の目を抜く音楽業界の中でもバックコーラスの周囲だけはピースフルなサンクチュアリ。スティングなど数々のスターのバックで歌ってきた驚異の歌唱力の持ち主、リサ・フィッシャーの言葉も印象的でした。

 「歌うとは分かち合うもの。競うものじゃない。自分のことを売り込むなんてさもしい気がしてできない」と、シャイな笑顔でコメント。彼女たちは自然と後ろへ後ろへと退いてしまう性質なのかもしれません。ただ、ごくたまにソロのチャンスを手にするバックシンガーもいますが、プロデューサーに騙(だま)されて売れている歌手の替え玉扱いされたり、小物扱いされて傷ついたり、軽んじられ都合よく利用されがちです。それもいい人すぎるからでしょう。

 気苦労のない人生

 ソロに挑戦したけれど失敗したタタ・ヴェガはこう言います。「もし私が成功して大金持ちになっていたら、ここにはいないでしょうね。ヤク中で死んでたわ(笑)」。確かにスターにはスターの気苦労があります。大金を手にして薬物に溺れたり、頂点に達した後転落したり、スキャンダルを書き立てられたり……。映画に出てくるミック・ジャガーやデヴィッド・ボウイなどのやつれ具合や老化ぶりと比較すると、60~70代のバックシンガーたちはアンチエイジングでストレスフリー。実はスターにならない方がそこそこ幸せかもしれない、とふつうの人生を肯定できる映画です。(漫画家、コラムニスト 辛酸なめ子/SANKEI EXPRESS

 ■しんさん・なめこ 1974年、東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。近著は「辛酸なめ子のつぶやきデトックス」(宝島社)、「セレブの黙示録」(朝日新聞社)、「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎)、「霊的探訪」(角川書店)など。

 【STORY】

 音楽界に君臨するトップスターたちを支えてきたバックシンガーたちに焦点を当てたドキュメンタリー。その波乱に満ちた人生が語られるほか、歌声も披露。ブルース・スプリングスティーン(64)、ミック・ジャガー(70)、スティービー・ワンダー(63)ら大物ミュージシャンも、バックシンガーたちとの関わりを語るほか、レコーディング風景など貴重な映像も挿入されている。モーガン・ネビル監督(45)。公開中。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<12月25日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

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