SankeiBiz for mobile

【辛酸なめ子の映画妄想記】外国人が見ても驚く美輪明宏のすごさ

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

【辛酸なめ子の映画妄想記】外国人が見ても驚く美輪明宏のすごさ

更新

映画「美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴(くろとかげ)を探して~」(パスカル=アレックス・ヴァンサン監督)。8月31日公開(アップリンク提供)。(C)KIREI  映画「美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴を探して~」

 流行に飛びついてはすぐ冷める、日本人は飽きっぽいことは重々わかっておりますが、そんな栄枯盛衰の世の中で、ずっとブレーク状態が続いているような希有(けう)な存在がいます。昨年末のNHK紅白歌合戦の「ヨイトマケの唄」で全国を感動の渦に巻き込んだ美輪明宏氏(78)です。劇場はいつも満員で、本を出せばベストセラー、その発言は神のお告げのようにありがたがられる、超人の域に達しています。

 三島由紀夫も魅了

 フランス人監督による「美輪明宏ドキュメンタリー~黒蜥蜴(くろとかげ)を探して~」を見て、外国人の目から見ても、美輪様はやはりすごい方なんだと思い知らされました。パスカル=アレックス・ヴァンサン監督は驚きとともにこう発言しています。

 「フランスでは、日本文化といえば三島由紀夫、寺山修司、深作欣二、宮崎駿そして北野武が有名だ。とてもよく知られている。美輪さんはその全員と一緒に仕事をしている。何てすごいんだろう!」

 そう言われれば確かにそうです。美輪様は、日本の重要なアーティストたちのミューズとして君臨してきたのでしょう。ドキュメンタリーでは、そうそうたる文化人との交流エピソードも語られています。

 例えば、三島由紀夫(1925~70年)とはじめて会ったとき。相手が三島でも愛想を振りまかない美輪様に対し「かわいくない奴だな」と三島が言うと、美輪様は「かわいくなくていいんです。あたしは綺麗ですから」と言い放ち、それがきっかけで気に入られ仲良くなった話。「君は素晴らしいが95%の長所を消す5%の欠点がある。それはオレに惚れないことだ」と、三島に真顔で言われた話など。「そ~~んな欠点あるの~~?」とα波を誘発する美輪様のビブラートボイスで語られると、すごいエピソードも自慢っぽくなく素直に受け止められるのが不思議です。

 そしてところどころに挿入される、若かりし美輪様の映像の、無敵で強気で圧倒的、でもどこか奥ゆかしい美しさに目を奪われます。白いファーをまとい、黒薔薇を持った美輪様が「私、悪い女ですのよ」というセリフに鳥肌が立ちました。今の髪の色も幻想的ですが、黒髪ストレートロングヘアもミステリアスです。

 力の源は愛だった

 寺山修司(1935~83年)のアバンギャルドな映画や舞台、大島渚(1932~2013年)の映画にも出演し、当時から最先端だった美輪様。そのカリスマオーラは今のレディー・ガガ以上…アフロのウィッグを付けて泡風呂に浸かる貴重な姿も見ることができました。舞台「毛皮のマリー」でも泡風呂入浴シーンがあり、そこではセミヌードを披露するというサービス精神旺盛さ。舞台でバストトップを出しても違和感なく受け入れられるのは、美輪様が性別を超えた存在だからでしょう。同性愛者の道を切り開いた美輪様の功績も、ファンの男性の言葉とともに紹介されています。

 それにしても、この尽きせぬ創作活動の原動力は何なのだろうと驚嘆の念を持って見守っていたら、「どんな時も必ずわたしを愛してくれた人がいたのね。何人かはね。わたしの力になってくれました」というお言葉が。

 力の源は愛だった、そんなシンプルな人生の真理に感動を覚えながらも、「何人かはね」とさらっと言ったハーレム状態がひっかかりましたが、美輪様は何をやっても許される存在…。黄色い髪、ゴージャスなインテリア、エレガントなドレスなど目にうつる美輪様テイストが全て縁起良い感じで、見ると成功運をわけてもらえるかもれない映画です。8月31日から東京・渋谷アップリンクほか全国順次公開。(漫画家、コラムニスト 辛酸なめ子/SANKEI EXPRESS

 ■しんさん・なめこ 1974年、東京都生まれ、埼玉育ち。漫画家、コラムニスト。近著は「辛酸なめ子のつぶやきデトックス」(宝島社)、「セレブの黙示録」(朝日新聞社)、「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎)、「霊的探訪」(角川書店)など。

ランキング