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デフォルメされた美少女の細緻 「絵師100人展 02 京都篇」

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デフォルメされた美少女の細緻 「絵師100人展 02 京都篇」

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蒼樹うめ「春夏秋冬」。(C)産経新聞社/蒼樹うめ  職人技への尊称

 「絵師」という言葉をご存じだろうか。もともと江戸期に浮世絵の版の元となる絵を描いた職人を指す言葉だったが、近年においてはだいぶん異なる。サブカルチャー界の用語で、主にデジタルで美しく絵を描くプロのイラストレーターやグラフィッカー(CG制作者)を指す。ネットで公開した絵が職人技レベルに達しているアマチュアに対しても、称賛の意味も込め、「絵師」という呼称が用いられている。

 京都国際マンガミュージアム(京都市中京区)で開催中の「絵師100人展 02 京都篇」では、そうした絵師たちから最前線で活躍するえりすぐりの105人の作品を展示している。彼らの職業は主にイラストレーターやマンガ家、アニメ・ゲーム関連の原画・キャラクターデザイナーだ。例えば、美少女のイラストを特産物のパッケージに用いたり、イベントを催して町おこしをする“萌えおこし”というムーブメントがあるが、本展の参加者、西又葵(にしまた・あおい)は、秋田県羽後町の農協「JAうご」が販売する「あきたこまち」の米袋に美少女を描き、一躍有名になった。その活躍は国内にとどまらない。映画『スター・ウォーズ』の画集に参加、ディズニーともコラボレーションを行っている。

 また『ひだまりスケッチ』の作者で、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』のキャラクター原案を手がけた蒼樹(あおき)うめや、『びんちょうタン』など擬人化キャラデザインで有名な江草天仁(えくさ・たかひと)らマンガ界からの作品も「絵師100人展」で楽しめる。

 「萌え」表現とは?

 「絵師」展では、全作品が「日本の四季」というお題で描かれ、絵師それぞれの解釈を横断的に比較することができる。最も興味深いのは、特に指定があったわけではないのに、彼らが描いたモチーフのほとんどに美少女が登場する点だろう。美少女は、いわゆる「萌え」の象徴的な表現だ。顔の面積に対して目が大きく、きゃしゃな体に比して胸は豊満、髪形・髪色も奇抜で、実在する人間とは似ても似つかないという特徴が共通する。服装も、より記号的に現在の日本のイメージを連想できる着物(巫女も含む)やメイド服、女子高の制服などが描かれている。生地は無限に伸縮し、体のプロポーションをさらに強調している。

 このような容姿を不快に思う人もいるかと思えば、国内外問わず、意外とそうではないようだ。それは、日本のマンガやTVアニメ、ゲームで育った世代にとっては、むしろ二次元での創作表現としては見慣れたものであり、むしろ老若男女問わず好まれてさえいる。

 江戸の浮世絵と同じく、これらもデフォルメされた表現と考えれば、将来的には「ハイアート」と位置づけされる可能性すらある。

 ハードウエアと探究心

 絵師の作品がここまで巧みに描かれるようになった背景には、PCゲームの発展がある。PCゲームは1980年代後半に16ビットカラー作品が登場、95年に「Windows95」が発売されて以降は、グラフィック制作にかかわるハードウエア(道具)が格段に性能アップを遂げていった。それに伴い、人物は、髪の艶や瞳の潤いなどがより鮮やかで、肌の質感や、人物の背景までも美しく描くことが可能になり、魅力的な作品が無数に生まれていった。

 もちろん、美少女像がより「萌え」る方向に発展していった根底には、恋愛シミュレーションゲームやアダルトゲームに登場するヒロインを、もっと魅力的に描きたいというグラフィッカー(絵師)の度重なる試行錯誤があった。やがてPCゲームの美麗なグラフィックはミーム(=情報の遺伝子)として、アニメ作品へと受け継がれていく。アニメ制作会社「京都アニメーション」は、「Air」「Kanon」「CLANNAD」などの人気ゲームの世界観を見事に描写。その職人技は並大抵ではない。

 絵師の進化がとどまるところを知らないのは、若手が日々参入し、出版社が新たな才能を求め続けているために、絵師たちが自らの表現を必死に探求していることが大きい。これが次第にテクニカルな技を生み出し、個性的な色彩を描く理由になっている。「絵師100人展」では、匠(たくみ)に磨かれた技の粋が集結している。迫力ある特大プリントも展示しており、画集やPC画面では分からない細やかなテクニックをご堪能いただければと思う。(京都国際マンガミュージアム研究員 應矢泰紀(おおや・やすのり)/SANKEI EXPRESS

 ■おおや・やすのり 1974年生まれ。京都精華大学大学院芸術研究科・視覚伝達デザイン専攻博士前期課程修了。京都国際マンガミュージアム研究員。

 【ガイド】

 「絵師100人展 02 京都篇」は12月1日まで、京都国際マンガミュージアム(京都市中京区烏丸通御池上ル)で。引き続き12月7日~来年2月11日まで「絵師100人展 03 京都篇」も開催される。水曜休。大人1000円、中学・高校生500円、小学生100円。問い合わせは(電)075・254・7414。

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