SankeiBiz for mobile

2人の母親に役割担わせてみよう 映画「もうひとりの息子」 ロレーヌ・レヴィ監督インタビュー

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

2人の母親に役割担わせてみよう 映画「もうひとりの息子」 ロレーヌ・レヴィ監督インタビュー

更新

 病院で起きかねない赤ちゃんの取り違え事故はよくドラマの題材となるが、フランスのロレーヌ・レヴィ監督(54)が手がけた「もうひとりの息子」は、さらに複雑な事態を招く要素が加味された。事故の当事者は、それぞれユダヤ教とイスラム教を信仰する家族なのだ。

 テルアビブに暮らすイスラエル人の青年ヨセフ(ジュール・シトリュク)は、兵役前に義務付けられた健康診断を受け、遺伝的に両親(エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ)の実子ではないことが判明した。病院側の調査で出生時に乳児の取り違いが明らかとなり、パレスチナ自治政府・ガザ地区に住むアラブ人の青年ヤシン(マハディ・ザハビ)が本来あるべきヨセフの姿だった…。

 レヴィ監督はユダヤ人の家庭で育ったフランス人女性で、大勢の親戚(しんせき)をナチスの強制収容所で失った忌まわしい過去を持つ。自身を「ユダヤ性を帯びた無神論者」とも公言しているせいか、本作の出来栄えはユダヤ、アラブのいずれの側にもくみするものではなく、一人の人間として悲劇に直面した登場人物たちの葛藤がうまく切り取られている。

 ゼロからは何も生まない

 この紛争地域で大昔から続く仲たがいの解決には、少なくとも前向きな「未来志向の態度が必要」との思いが強い。「映画では結果的に2人の息子たちは紆余曲折を経て、両方の家族に受け入れられていますよね」と念を押すほどだ。日本に「生みの親より育ての親」との言葉があることや、本作を夢物語と突き放す批評家がいることも承知しているが、ゼロからは何も生まないからと、レヴィ監督は意に介さない。

 物語を穏やかな着地点へと導いたのは、度量の大きい2人の母親(ドゥヴォス、アリーン・ウマリ)だ。レヴィ監督は「かつてのルーマニア大統領夫人、エレナ・チャウシェスク(1916~89年)のように権力を欲しいままにした男勝りの女性もいましたが」と前置きしたうえで、「一般に女性は男性よりも権力や戦いを好まず、世の中の動きをおなかで感じとる存在」と捉えている。

 男性とは違い、威厳やメンツを保とうと何らかのイデオロギーに固執する余り、一人の人間としての温かな心を忘れてしまうことはないとも。だから、レヴィ監督は共同で脚本を執筆しながら何度も自分に言い聞かせたそうだ。「2人の母親には男たちにイデオロギーを忘れさせる役割を担わせてみよう」。10月19日から全国順次公開。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:荻窪佳(けい)/SANKEI EXPRESS

 ■Lorraine Levy 1959年1月29日、フランス生まれ。85年、劇団「La Compagnie de l’Entracte」を創立。91年、「ゼルダ、または仮面」でSACD(劇作家並びに劇作曲家協会)から最高栄誉「ボーマルシェ賞」を受賞。長編映画の監督は、本作「もうひとりの息子」で3作目。東京国際映画祭グランプリと最優秀監督賞をダブル受賞。

 ※映画紹介写真にアプリ【かざすンAR】をインストールしたスマホをかざすと、関連する動画を視聴できます(本日の内容は6日間有効です<10月23日まで>)。アプリは「App Store」「Google Playストア」からダウンロードできます(無料)。サポートサイトはhttp://sankei.jp/cl/KazasunAR

ランキング